島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)9
相原は人の気配を感じて進かと思いそろりそろりと入って来たが真田の姿を見てシャキッと敬礼する。
「おっ、お疲れさん。」
真田も敬礼で返す。
「しかしユキ、ノックで誰だか判るんだ。」
真田が感心して言う。
「基本、(メイン)クルーはノックですから…。」
聞きなれたリズム。でも誰もが3回ノックで同じようなリズム。聞き分けられるのはこの二人だけかもしれない、と真田は思った。
「相原、俺は退散しようか?」
真田が気を利かせて退室しようとしたが相原は“いえいえお邪魔してるのは私ですから”と言って真田を止めた。相原もユキにとって真田が特別な存在、という事はよく知っている。
「ユキさん、実は明日なんですが…。」
藤堂のスケジュールはユキも把握している。端末を見る事など体を動かさない仕事は認められていたので藤堂のスケジュールを組んだり会議の資料をまとめたり、と細かな端末上の仕事をしていた。それも徐々に減らし近いうちに全ての仕事を相原の引き継ぐつもりだ。
相原は翌日のアドバイスをもらいに病室に来ていた。そして昨日の仕事の話、それによって今後の事も考える。真田はふたりの様子を見てまるでヤマトに乗っている時の様だと思った。ユキは生活班の班長で同じメインクルーという事で相原がサブを勤めていた。食堂の部分は幕の内が仕切っていたが実質2人で生活班は成り立っていた、と言っても過言ではない。その息の合ったふたりがこうして同じ仕事をしているので藤堂も困る事はなかった。
「今日、古代くんは?」
仕事の話も一段落したので相原がユキに聞く。
「お昼食べて仕事に戻って行ったわ。」(ユキ)
「相変わらず仲がよろしい事で…軍の中でも評判なんです。古代くんがお昼を
テイクアウトしてどこへ行くのか、って。」
軍の内部ではユキは自宅療養という事になっている。長い入院だとなにかと詮索されてしまうので…。
「ふふふ、そうなの?」
ユキは進の話を聞く時とても幸せそうな顔になる。真田もその笑顔を見て笑う。
「長官も心配してらっしゃいました。奥さまから時々話を聞いている様子で…
もちろん僕も話しますけどやっぱり男から聞く話と違うんでしょうね。」
神経の細やかな相原は自分に足りない部分があることを申し訳なさそうに言う。
「ほら、奥さまはやっぱりお子さん産んでらっしゃるから私の身体の事、
わかるのよ…。」
女性にしか分からない事…妊娠は経験した者じゃないと分からないことだらけだ。
「そうだな、男にはわからない世界だ。それが普通、って事だよ、相原。」
真田が相原に助け舟を出す。
「そう言う事。」
ユキの笑顔に相原も頭を掻くしかなかった。
しばらく話した後相原は“仕事に戻ります”と言ってユキの病室を出て行った。その後ろ姿をユキが寂しそうに見つめてた。
「取り残された気持ち…か?」
真田はユキの気持ちを代弁した。ユキがハッとした顔で真田を見る。
「秘書の仕事…ユキ、頑張ってたからな。相原はユキに相談してる所もあるが
ユキに報告も兼ねていると思うぞ?ユキがいつでも復職できるように、って
考えているはずだ。相原は細かくその日にあった事を報告してくれるだろう?
もし明日、ユキが戻って来ても困らないように、と思ってるはずだ。」
確かにもう、アドバイスなどしなくても困らないはずだ、とユキは改めて考えた。
「あいつは気が利くな。古代にこっそり病院に行くよう、俺から伝えよう。
古代の事だ、昼食テイクアウトして何も考えずダッシュでここに来てる
だろうから。」
ユキはいつも進の息が切れている事を思いだした。
「よろしくお願いします。」
ユキはベッドの上から頭を下げた。
作品名:島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)9 作家名:kei