島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)9
それからしばらくするとつわりが始まり食事がとれなくなってしまった。常に顔色も悪く酷いと水も受け付けなくなっていた。さすがに毎日来ていた相原も遠慮するようになっていた。ユキの両親もヒロシマからやってきて様子を見に2、3日滞在していたが何も出来る事がないしそばに進がいるのでヒロシマに戻って行った。
ユキはぐったりベッドに横になっている事が増えた。つわりでろくに食事もできないので点滴に頼っている状態。進も食事を食堂で取ったあとユキの病室に顔を出す、と言う状態だった。
「辛いな…。」
ベッドでぐったりしているユキのほほを進がそっとなでる。ユキが首を横に振った。
「ううん、この子が私の中にいる証拠ですもの…大丈夫。」
ユキが微笑む。
「この子もきっと必死に私のお腹にしがみついているのよ。」
“ねっ”と視線を自分のお腹に向ける。まだ2か月に入ったばかりなのにすでに母親の顔になっている。進は痩せて顔色の悪いユキを見つめながら微笑む事しかできなかった。
藤堂はユキを何とかして軍に残したかった。しかしこのまま、と言う訳にもいかずどうしようか考えていた。相原はそれを察していろいろ調べた。運よくユキは国家公務員。守られる部分は多い…。
「長官、少しお時間よろしいですか?」
相原が藤堂に声を掛けた。藤堂が秘書室のソファーに座ったので相原がその向かいに座る。
「ユキさんの事なんですが…かなり体調が悪く流産の危険もまだある中、今は
つわりでほとんど食事をとれなくなっています。(藤堂が頷く)しかし
通常、これだけ長く休暇を与える事も出来ない、そうお考えてらっしゃい
ますよね…お産は病気ではありませんがユキさんの場合リスクが高い、と
いう事で医師に診断書を書いてもらったらいかがでしょうか?病気などの
自宅療養は長く認められていますし…そしてそのまま産休に入ってしまえ
ば誰も文句言えません。その為にはユキさんの妊娠を人事に伝えなくては
いけなくなりますが…。」
まだ安定期に入っていないのに周りに知らせる事は抵抗があった。だが…
「ふむ…それが最善、と言う事か…ユキも心置きなく休めるようになる…。」
藤堂は秘書室のソファーに座り考え込んだ。
「古代を呼んでくれ。」
藤堂は相原にそう指示を出すと長官室に入った。
「古代です。」
5分と待たず進は長官室にやってきた。相原が扉を開けると頷いて長官室の扉をノックした。
「入れ。」
藤堂が短く返事をすると相原がコーヒーを持ちながら扉を開き進をソファーに案内するとコーヒーをテーブルに置いて秘書室へ辞した。
「すまんな、忙しい時に。」
すでに訓練学校のガイダンスを作成し終えて実戦プログラムを作成中だった進は“急ぎの仕事はないので”と返事をした。
「ユキの事なんだが…」
難しそうな顔に進が身を乗り出す。
「ユキの妊娠を人事に知らせていいだろうか?」
藤堂の申し出に進は意味が分からず少し身を引いた。
「実はすでにユキの入院が一カ月に及んでいる。有給はまだ残っているが
これだけ長く休暇を与えるには理由が必要になる。そこでユキを病気療養中と
同じ扱いにしてもらおうと思ってな。ただ、そうするとユキの妊娠を告げなく
てはいけなくなる。診断書を書いてもらえばすぐに病気療養中と言う事で
仕事は休める、が、どこからどう漏れてどうなるか…。ましてまだ安定期に
入っていないから万一の時のダメージも大きい。」
藤堂の言っている事はもっともの事だった。ユキを軍に残すためには多少のリスクは仕方ない。ただ病院にいるのでマスコミに追い回される事もないだろうと進は判断した。
「長官、それでお願いします。ユキもここまで頑張った秘書の仕事を奪われ
たらそれこそ万一の時生きる希望を失ってしまうかもしれません。」
進が藤堂の顔を見る。
「わかった。では古代、大至急診断書を私に送るよう、担当医に伝えてくれ。
私のアドレスを教えていいから。」(藤堂)
「了解しました。」(進)
「ひとは噂話が大好きだ…人事からどう漏れてしまうか…すまんな。」
藤堂は申し訳ない、と頭を下げた。
「いえ…」
進が慌てていると藤堂が頭を上げた。
「他に明るいニュースがあればいいんだが…まだ何もないからな。ただ…」
藤堂が笑顔で進を見る。
「ふたりの事は誰もが注目している。傍から見たら英雄同士の結婚だ。」
作品名:島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)9 作家名:kei