島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)9
それから一週間後、英雄の丘で新しいレリーフのセレモニーが行われた。ユキは病院から直接向かった。もちろん進の送迎で。冷えないようにパンツスタイルの制服に身を包み高いヒールもお預け。
新しいレリーフのほかに沖田の像の後ろにヤマトが置かれその台座に過去の戦歴とクルー全員の名前が刻まれた。その後ろには戦歴に刻まれた女神の名前が刻まれた。…火星で命を落としたサーシァを始めイスカンダルの女王、スターシア…白色彗星帝国と一緒に戦ったテレサ、暗黒星団帝国と戦い若き命を捧げた幼い進の姪、サーシァ。ルダがいなければ太陽は制御する事は不可能だった。そして最後にアクエリアスの女王…
試練を乗り越えた者だけが幸せを掴む事が出来る…
ユキはこの言葉を今あらためて自分に置き換えてみる。両親に認めてもらえずひとりで家を出た事、自分の夢の為に必死になって勉強した事。怖い思いをした事は多々あったがその度に誰かが助けてくれて支えてくれた。そして今また幸せになるために乗り越えなくてはいけない試練と戦っている。それは自分自身の身体の事で何もなければお腹にいる子供と一緒にマタニテイライフを満喫するのだろうけど絶対安静と言われベッドにくくりつけられている日々…。動けないと言うこては苦痛だが進の為、と思うと我慢できるから不思議だと思う。
セレモニーには地球連邦の新しい大統領が来ていた。今までならユキがその出迎えをしていたが今回ばかりは相原にその代役を頼んだ。相原なら何かあった時、護衛も兼ねるので安心して任せられる人材だからだ。司会を務める藤堂の横で汗を拭きながら緊張した様子で相原が立っている。ユキはその様子を少し離れた所から座ってみていた。
やがてセレモニーも終わり人が散り始めた所でヤマトのメインクルーがユキの元へやってきた。まだつわりはないので顔色はいい。
「ユキさん、大丈夫ですか?」
相原が声を掛ける。
「相原くん、大役お疲れさま。」
ユキが相原を労う。
「本当に大変でしたよ!誰もが口を揃えて“森秘書はどうした”って…。」
相原が緊張で固くなった顔の筋肉を両手でほぐしながら言った。
「まぁ公務員はいろいろ守られてるからそれを利用してこのまま出産、でも
いいんじゃないの?」
南部が真剣な顔をして言う。
「冷えは良くないですわ。」
山崎の妻がそっとショールをユキに掛けた。午後になり少し風が出てきた。
「ありがとうございます。」
ユキはショールを借りると進の顔を見た。
「島の所へ行くか?」
ユキは入院していたのでまだ島のレリーフを見ていない。進がユキの手を取って腰に手を添えて転ばないように支えながらゆっくり歩き始めた。クルーはそれを静かに見守る。
「島くん…」
ユキの眼から大粒の涙がポロポロと落ちる。進は涙をこらえ空を見上げている。
「ずっと一緒にいてくれてる感じがするわ。ここにレリーフがあっても私達
ずっと一緒よね?古代くんがいて、真田さんがいて太田くん、相原くん、
山崎さん…そして南部くん。みんな一緒…。私達を見守っててね。」
ユキが島のレリーフに触れながら話しかける
{任せろ、ずっと一緒だよ、テレサもね。}
ユキは空耳かと思ったがこれは島の声だ、と思って小さくうなずいた。それから沖田の裏に回りヤマトの戦歴をみてヤマトに触れて新しいレリーフをひとりひとり確認しながらゆっくり歩いた。そしてメインクルーと一緒に中央病院に戻った。
作品名:島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)9 作家名:kei