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島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)9

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  「よかった…本当によかった…」

進はユキの手を握って泣いていた。

  「古代くん…」
  「モリタ先生も紫先生も子供は諦めてくれ、って…もし流産の場合その後の
   妊娠の可能性もかなり低くなります、って言われて…そんな事よりユキが
   苦しむんじゃないか、って思ったけど男って何もできないだろう?なにが
   地球を救った英雄だ…ユキひとり、お腹の子ひとりも守れないんだ…
   俺って…非力だ、って思ったよ…」

ユキの手を握る進の手に力がこもる。

  「島くんがね、助けてくれたの。そこに座ってると冷えるぞ、って。」

ユキが静かに涙を流しながら進に教えた。

  「島くんが守ってくれるわ…私もお腹の子も無事だ、って教えてくれたの。
   でも先生のいう事聞け、って言われちゃった。」

ユキが鳴きながらも少し笑う。

  「古代くん、制服が真っ赤…」(ユキ)
  「あ、そうだ、着替えなきゃ、って思ってたんだ。」

進はここから出勤してるから着替えもある。

  「ちょっと着替えてくるね。」

進が隣の部屋に行ったのでユキは自分が倒れたであろう所を見つめた。すでに窓のそばに置かれたイスは交換されそこにはない。カーペットもきれいに掃除されていた。

  「ごめんね、ちょっとつらかったね。」

ユキはまだ出てないお腹をさすってつぶやいた。

  「早くあなたに会いたい…そしてたくさん話をしたいわ。」





進は着替えを済ませてベッドの横に戻るとユキは静かな寝息を立てて眠っていた。  













進は眠っているユキの横で端末を見ていた。訓練学校の情報や訓練の相談のメールが入る。時々ユキを見るが様子は変わらずずっと眠ったまま。その安らかな寝顔を見るとホッとするが時々脈を取ったりしてしまう。

ユキが倒れているのを発見した時イスカンダルからの帰りを思い出した。ただあの時と違い絶対安静を言われているユキの身体を揺さぶる事はしなかった。少しほほを叩き反応がないのでそのままベッドに運びナースコールを押した。すぐに紫がやってきてカーテンで仕切られてユキに処置が施される。進はその様子をカーテンの外でじっと待つことしかできなかった。


ふとため息をついたところでユキの部屋の扉をノックする音がした。進がユキの顔をもう一度確認して立ち上がり扉を開けた。そこに立っていたのはモリタだった。

  「検査、しないとね。今日は特別に私がしよう。」

モリタはにこやかにユキの病室へ入るとベッドのそばのソファーに座り消毒綿を取り出して進の指先を消毒した。

  「少しチクッとするよ。」

進の指先ににじんだ血液をキッドが吸い込む。結果が出るのに少し時間がかかるのでモリタはユキのベッドへ歩み寄った。

  「この子は強い子になるよ。」

モリタが進に向かって言った。

  「普通なら絶対胎児が耐えられないそうだ。」

進が緊張した顔になる。

  「きっと、この子は自分の足でしっかり歩く事が出来るだろう。進くんと
   ユキさんの名前に負けず、ね。どこへ行っても“古代”と言う珍しい苗字
   だから進くんの子供ってわかっちゃうよね。言葉はどうあれ“英雄”の
   子供だ。いい事も悪い事も全て吸収してしまうだろう。いろいろな葛藤も
   あるだろう。素直に聞き入れられな時期が長いかもしれない。だけどこの
   子の血は二人の遺伝子が流れている。きっといい子に育つだろう。」(モリタ)
  「モリタ先生…。」
  「今日、英雄の丘へ行ってきたよ。あの時の4人のうち3人があそこに
   いるなんて信じたくないけど…時々行ってお礼を言うんだ。地球の為に
   ありがとう、ってね。」

進は何も言えなかった。

  「さて、結果、出たかな?」

モリタはそう言うと手に持っていたキッドを開いた。

  「大丈夫だ…ユキさんの事で数値が上がってるかもしれない、って思った
   けど。…進くんも強くなったね。」(モリタ)
  「予断は許さないけどユキさんはきっとこの試練を乗り越えて進くんの
   家族を産んでくれるよ。神様はそんな意地悪じゃないはずだ。」

モリタの言葉にアクエリアスの女王の“試練”と言う言葉が重なる。

  「出来るだけそばにいてやってくれな。」

モリタはそう言うと進の肩をポンポンと叩いてユキの病室を出て行った。