島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)9
さすがに今日は毎日来る相原も遠慮したらしく病室に来なかった。誰も来ない病室はとても静かで進は少し違和感を感じた。
「ユキ…。」
進が端末を閉じてユキの顔を覗く。苦しそうな表情はなく呼吸も落ち着いている。ユキの右手の脈もしっかり規則正しく動いている。
{心配性だな}
進の頭の中に島の声が聞こえたような気がした。
(しょうがないだろ?心配しかできないんだから。)
進が心の中で答える。
{鬼の古代もユキの前では形無しだな。}
今にも笑い声が聞こえそうな島の声。
{思い出すな…初めて逢った時を…もし、サーシァさんが生きていたら、って
思った事ないか?}
島の声が頭に響く。
(あるよ。でももしもサーシァさんが生きていても俺はユキを選んだと
思う。)
進がユキの手を握る。
{そうか。}
(あぁ。)
進のすっきりした顔を見て島が笑う。
{お前、本当にいい顔してるよ。お前は知らないだろうが結構人気あるから
雪に心配かけるんじゃないぞ?}
(へ?人気?ユキが、だろ?)
婚約した後も求婚が断たず結婚した後もそれとなく告白をしてくる者がいると言うのは噂で何度も聞いた。
{バカ、お前だよ。本当に鈍い奴だな。}
(バカ、バカ言うな。)
{だってしょうがないだろ?正真正銘のバカなんだから。}
島はゲラゲラ笑っている。
{まぁお前は訓練生の頃から鈍かったからしょうがないな。俺は随分お前の
事、聞かれたぜ?まぁ面倒だからお前に気のあるやつには直接行け、って
言ってたけど…訓練中のお前を見ると声を掛けられない、って言って結局
そのままだったんだよな。そのおかげでユキがいるんだ。よかったな。}
(そうだったのか?)
進は訓練以外興味はなかった。
{だからお互いの気持ちも気付かなかったんだろうけど…鈍すぎ!あんなに
お互いバレバレなのに当人が全く分からない、なんてあり得ないぜ?}
島が突然進を攻めだした。
{そのおかげでどれだけの男がその裏で泣いたと思ってる?そのうちの一人が
俺だ。佐渡さんに浴びるほど処方箋もらって(お分かりだと思いますが
アルコールです)二日酔いにまた処方箋もらって…医務室何日通った事か。
まぁ…太陽系出たあたりだったから…傷は浅かった、かもしれないな。
ユキは大丈夫だ。俺とテレサが守る。何があっても守るからな。とにかく
無理はするな、かな。}
島が明るい声で笑う。本当に幸せそうだ。
(島…俺…)
{いいんだ、お前は生きてる。生きてユキと幸せになれ。時々次郎を訪ねて
くれないか?やっぱり俺がいなくなって寂しそうだ。子供が生まれたら
次郎に世話させてやってくれ。多分、役に立つはずだ。}
(次郎くん?)
{あいつ、結構デキがいいんだ。予備生になれそうだからいい年になったら
お前の子供の家庭教師のバイトさせてやってくれよ。}
(次郎くんが家庭教師か…一番安心できるな。)
{だろ?お前だっていつかはまた飛ぶはずだ。家に男がいると役に立つぞ?}
(そうだな。次郎くんが予備生か…懐かしいな…あれから10年だ…島や
加藤たちじゃなかったら俺も無理してでもついて行こうとしなかったかも
しれない。今、こうしてここにいるのはやっぱり島たちのおかげだ。)
進がしみじみ言う。
{そうだな、お前倒れたもんな。でも…よく耐えたと思う。健康な俺達だって
大変なのに病み上がり、だったからなぁ……。}
(あぁ…モリタ先生も島と加藤、山本、相原の事覚えていてくれたぜ?)
{あのいい先生だろ?時々英雄の丘に来てくれるんだよな。お前の事も自分の
子供と同じように思ってくれている。頼ってほしいみたいだぜ?}
(本当か?)
{マジだって。まぁお前は甘える事、あんまり知らないからな。相談事が
あればモリタ先生に相談しろ。クルーと同じくらい、親身になってくれる。
なかなかそんな人いないから大事にしろよ。}
少しずつ島の声が小さくなる。
(島?聞こえにくいよ?)
{あ?モリタ先生も大事にしろ、って言ったのさ。}
そう告げると島の声は聞こえなくなった。進が我に返るとユキのベッドに上半身を投げ出すようにして眠っていた。
「いつの間にか…寝てたんだ。夢だったのか?」
進はリアルに話をしていたようなそんな気持ちになった。
作品名:島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)9 作家名:kei