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島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)10

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  「少しだけ…一度自宅で様子を見ましょうか。」

待ちに待った退院予告。紫の言葉にユキが満面の笑みで答える。最初の入院からすでに半年以上過ぎていた。お腹も出てきたが体重は妊娠前にまだ戻っていない。

  「いいですか?絶対に無理しない事。」

紫の顔に笑顔はなかった。

  「本当なら出産までここにいてほしいんです。」

中央病院なら万一の時すぐに対応できる。

  「出血したらすぐここの救急車を用立てますからすぐに連絡ください。」

紫の真剣な顔にユキは笑顔を封印した。

  「ユキさんも医学に携わっていた人として自分がどのような状況におかれて
   いるのかわかっていると思います。妊娠は病気ではないですがユキさんの
   場合、普通の妊婦よりリスクが大きいので少しでもお腹が張ったら絶対に
   休むようにしてくださいね。古代さんには自宅での過ごし方をメールして
   おきます。ユキさんに伝えても無理だ、って事もしちゃいそうで…。」

紫は進の連絡先をしっかり聞いている。

  「まぁちょうど産休に入れる時期ですから…8か月目…31週です。出来れば
   後4週お腹にいられるように努力しましょうね。万一の時は帝王切開で
   お子さんを取り上げる事になります。」

ユキは紫の顔を見つめて頷く。

  「できれば家事も何もしないでここと同じ生活をしてください。点滴で栄養を
   摂っていましたがそれもできなくなります。随分つわりも治まって来たので
   胃がびっくりしないよう、少しずつお腹に入れるよう食べてください。」

紫がカルテをもう一度見た。

  「退院は一週間後で…もちろん、それまでに何もなければ、の話ですよ。」

紫はそう言って立ち上がるとユキの顔を笑顔で見つめた。

  「よく…頑張ったわ。ユキさん。」(紫)
  「いいえ、頑張ってくれたのはこの子…きっとお腹の外に出たい!って気持ちが
   強い子なんだと思います。」(ユキ)
  「えぇ…きっとそうね。」

紫はそう言うとユキの病室を出て行った。











それからユキにしてみたらとても長い一週間が過ぎた。翌日の退院を控えそわそわしている。身の回りの物の整理も昨日のうちに進が済ませた。ユキが手伝おうとすると厳しい目をして

  「紫先生から絶対に家事はやらせないように、って言われてる!」

と言って全く手を出させてくれなかった。明日、進が2時に早退して自宅の掃除をして病院に迎えに来てくれることになっていた。ユキは久々に自宅に戻るのが嬉しくてそわそわしていた。ベッドに寝ていても落ち着かない。

  「そうだ…お茶でも入れて飲もう。」

ベッドから立ち上がった時お腹に鈍痛を感じた。

  (おかしい…)

ユキは今まで感じた事のない痛みにベッドから立ち上がったまま動けなくなった。

  (なに?)

次に太ももから膝、足首と生暖かい物が流れているのを感じてふと足元を見るとびっちょり濡れている。

  (うそ…破水?)

やっと32週…お産には早すぎる…



  「きゃあぁぁああぁ!!!!!」

ユキはどうしたらいいか判らなくなってしまいパニックに陥った。

  「いやぁ…助けて!助けて!!」

叫ぶ声を看護士が聞きつけてユキの病室の扉を開けた。

  「古代さん!落ち着いて!!大丈夫ですから!!」

看護士はユキの様子を見てナースコールを押し

  「破水しています!本人パニックを起こしています!紫先生を呼んでくだ
   さい!早く!!」

ユキはガタガタ震えながら立ち尽くしている…その間もユキの足を伝って羊水が流れ続ける。間もなく紫と看護士がストレッチャーと一緒に入ってきた。

  「せぇの。」

固まっているユキを抱えるようにストレッチャーに乗せて診察室へ運ぶ。

  「かなり大量に出ています。」

看護士が紫にしか聞こえないよう、走りながら伝える。

  「そうみたいね。」

紫も床にできた羊水の跡を思いだし顔をしかめた。

  「古代さんに連絡は?」(紫)
  「はい、今こちらに向かっています。」

別の看護士が答える。

  「ユキ、気を確かに持って…この子を産むにはあなたの力が必要なのよ!」

元同僚が声を掛けるがユキの意識はすでに飛んでいた。そこへ進が反対側からやって来るのが見えた。

  「古代さん!」

紫が声を掛けると進は紫と並びながら小走りになった。

  「紫先生、ユキ?なぜ?」

進はストレッチャーに寝かされているユキを見て驚いた。

  「破水しています。」(紫)
  「破水?」(進)
  「お腹の中の子供を包んでいる薄い膜があるんです。その中に羊水が入って
   いてお腹の子はその中に浮かんでいるんです。その薄い膜が破けて羊水が
   大量に流れ出しています。」