島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)10
進は自宅に戻り退院用に買っておいたバラの花束を手に取った。ユキのイメージはやっぱり白。なので真っ白なバラの花を50本、購入していた。なかなか同じ種類の花を50本そろえるのも大変なので退院が決まったその日にすぐインターネットで調べて購入したのだった。
「目立つなぁ…」
50本のバラを抱えて歩く自分の姿を想像すると恥ずかしかったがユキの為、と思いバラを抱えながら冷蔵庫の扉を開きケーキを取り出した。
「さて、行くか。」
進は今度は静かに歩き出した。
「ほう…小さいなぁ。」
真田は携帯のカメラを起動させてユキの産んだ子供の動画を幾度かに分けて撮影していた。その様子を紫が見ていて廊下に出てくると真田に挨拶をした。
「こんにちは。随分熱心に見てらしたですね。」(紫)
「あ、そんなでしたか?…いや、この子は私にとっても特別でね…古代は
親友の弟でユキは私の妹の様な感じで…ずっと一緒でしたからこの子も
他人の様な気がしないんですよ。」
真田が嬉しそうに語る。
「かわいいなぁ…でもいつか、お父さん嫌い!って言うんだろうな。」
真田の言葉に紫が笑う。
「まるで真田さんがお父様の様ですよ。」(紫)
「ははは、私はこの子にとって“伯父”か“祖父”と同じ存在でしょう。」
紫が“祖父”と言う言葉を聞いて“そんな年じゃないですよね”と笑う。
「どちらでもいいんです。この子の人生に私が関われたらそれでだけで
いいんです。……ユキはこの子を見ていないんですよね?」
真田は全身麻酔、だと聞いていた。
「そうなんです。しばらくは安静にするよう伝えているので親子の初対面は
もう少し先になりそうです。」
紫が残念そうに言う。
「そうですか。じゃぁこの動画、早く見せなきゃ…では。」
真田はそう言うと紫に頭を下げてユキの病室へ戻って行った。
「ただいま。」
進がユキの病室に戻るとユキは一人ぼんやりと点滴を眺めていた。
「お帰りなさい。」(ユキ)
「気分は?」
ユキは進との会話より進が後ろに隠している物が気になった。
「ねぇ…」
とユキが返事の前に声を掛けようとした瞬間…進はユキの眼の前に真っ白なバラを差し出した。
「!!」
ユキは驚いて眼を見開いた。
「キレイ…真っ白…いい香り…」
このバラ自体は微香だがさすがに50本と言うまとまった本数なのでとてもいい香りがする。
「このバラね、正雪、って言うんだ。まるで本物の雪みたいに真っ白だろ?
よく人からユキの事白ユリのようだ、って言われるんだけど俺はこっちの
イメージなんだよな。ユリ、って凛とした感じでまさしくユキなんだけど
こう、美しいモノにはトゲがある…って言うか…。」
進の言い方にユキが引っかかりを感じて
「トゲ?」(ユキ)
「いや…そうじゃなくて、こう…なんて言うかなあの…その…注意と言うか」
進が困っている所に真田がノックして扉を開いた。
「お、古代帰ってたか。」(真田)
「真田さん、来てくれてたんですね!」
進は助かったという顔をして真田を見た。真田はユキにたじたじの様子が見て取れたので“変わらないな”と思った。
「きれいなバラだな。これ持ってきたら…目立っただろう?」(真田)
「はい…」
進が恥ずかしそうに下を向き頭を掻いた。
「いまどき同じ種類の花をこれだけの数注文するとなると事前に予約しないと
絶対無理だもんな。」
さすがは科学局。いろんな意味でよく御存知。
「え?じゃぁなんで今日?」(ユキ)
「ユキ、俺が想像するに古代はユキの退院に合わせて注文してたと思う。
ただそれが出産と重なった、って事だよな。」
真田の代弁に進が頷く。そしてケーキを見せると
「一緒に食べようと思って…つわりも落ち着いたし甘い物でフルーツ乗って
たらさっぱりと食べられるかな、って…。」
真っ赤な進に真田は、はははと笑う。
「ユキは愛されてるな。…そうそう、古代、お前子供みて何も撮らなかった
のか?」
真田の言葉に進は今ハッっとした。
「子供に夢中で…そうだ、写真!」
進の様子を見て“しょうがないな”と思いながら真田がユキに自分の携帯を見せた。
「ほら…かわいいだろう?」
保育器の中で元気に両手を動かしている子供が映っている。
「真田さん…この子が古代くんの子供?」
ユキの眼から涙がぽろぽろこぼれる。
作品名:島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)10 作家名:kei