島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)10
「そうだ…ユキが命がけでこの世に送り出した大事な大事なふたりの子だ。
すごいなぁこんなに小さいのにしっかり生きてる。ユキも早く体調を
戻してこの子を抱きに行かないとな。」
真田がユキの頭にそっと手を置く。その手がとても暖かくてユキの涙はさらに増えた。
(何度この手に救ってもらったんだろう。この手が無かったら今の私は
きっといない…。)
ユキはそっと涙をぬぐうと
「真田さん、これからもよろしくお願いします。」
そう言って頭を下げた。
「それはあの子の教育係でもさせられるのか?」
真田はそう言って少し身を引いた。
「えぇ…サーシァちゃんのように…優しい子に育てるために手伝ってくださ
いね。きっと古代くんは宇宙へ行くでしょう?私一人じゃ心細いです。」
そう言ってユキは笑った。
真田からユキの出産はクルーに連絡が入った。(動画付で)
ただまだ体調が思わしくないのでお見舞いはもう少し待った方がいい、とコメントが入っていた。真田が帰った後藤堂が夫婦で来て山崎も夫婦で顔だけ出して帰って行った。
翌日ユキの両親が来た。小さいが元気な子供を見て涙ながらに喜び二日滞在した後退院したらまた来る、と言って帰って行った。
両親が帰った頃からクルーの見舞いが始まった。ユキもベッドからの移動は車いすだったがNICUで赤ちゃんを抱く事も出来て少しずつ母親になった実感をかみしめていた。
世間はユキの出産を大々的に報じた。ヤマトのメインクルー、地球防衛軍長官の敏腕秘書、そして地球が征服された時のヒロインとして名を馳せているユキの出産をマスコミが黙って見過ごすわけがない。中央病院の正面玄関と裏口は常に記者がカメラを持って待機している。長官やメインクルーが病院に入る姿を放送したり(マイクを向けるがメインクルーはもちろん無言。)報道にも力が入っていた。
進は英雄の丘に来ていた。
沖田に挨拶を済ませ女神たちに挨拶を済ませると島のレリーフの所へ歩み寄る。
「島…ありがとうな。時間がかかったけど明日、美雪が退院するよ。あ、
この花はテレサさんに、だぞ?」
進が真っ白な百合の花束を手向ける。
「お前とテレサさんが守ってくれたんだな。」
進がつぶやくと
{俺達だけじゃないぜ}
と頭の中で声が響いた気がした。
「スターシァさんも…みんながユキを守っている、って事か。」
進は頭を掻きながら“悪い事出来ないな”とつぶやいた。
「空が青いな…加藤、飛んでるか?山本も一緒か?」
進は島のレリーフの後ろに回るとどっかり座りレリーフに寄りかかって眼を閉じた。
「もう一度…みんなでヤマトで飛びたいよ…。」
進の心は宇宙に飛んでいる。
{しばらく休憩しろ。お前が飛ぶ時は俺も一緒だ。俺だけじゃない、みんな
お前と一緒に飛んでる。}
「そうだな…一緒だよな。」
進はしばらくぼんやりした後立ち上がった。
「今日からユキの両親もくるんだ。賑やかになるよ。一人になりたい時
ここにくるからな。」
進はそう言うとトルコキキョウの花束を女神たちの捧げた。
進とユキの子供は“美雪”と名付けられ産まれて3日後に進が届け出を出した。ユキは帝王切開だったのと産後の体調が思わしくなく少し長く入院させられた。美雪はNICUはすぐに出られたものの保育器から出られず1か月ほど病院で過ごしやっと2500グラムを越えたので明日、退院となったのだった。進は美雪を迎え入れるために今日は早退し自宅の模様替えをして受け入れ態勢を整え全てを終えて英雄の丘に来ていたのだった。
「さてと…帰るか。」
進は立ち上がると加藤と山本のレリーフに触れて“じゃぁな”と手を上げて帰って行った。
作品名:島を想う(宇宙戦艦ヤマト完結編の後)10 作家名:kei