ガルマンガミラス滅亡の危機4
「あの…昨日は大変失礼いたしました。」
いつものように就寝前の酒を用意してリィがデスラーの私室に来ていた。
「…何をかね?」
デスラーの差し出した右手にグラスを渡し酒を注ぐ。デスラーは昨日の事と気付き右の口角を上げ少し笑った。
「いや…疲れているだろうに付き合わせて悪かったと思っている…が一人で
飲むより二人の方が楽しいと気付いてしまった…。今宵も余の相手をせよ。」
デスラーがそう言うとリィは申し訳なさそうな顔をしたままグラスを取りに行った。
「次からこのグラスを持ってここへ来るように。」
デスラーはそう言いながらデカンターからリィの持つグラスへ酒を注ぐ。リィは“はい”と頷きながら小さくグラスを掲げ“いただきます”と言って口をつけた。
「昨日…いろんなことを考えた。」
昨日は楽しい話ばかりをしたが今日は違った。デスラーは静かに酒が飲みたいのか真っ暗な外を眺める時間が多かった。
「リィ殿には…決まった男性がおるのか?」
リィは突然の問いに慌てた。
「え?あ、あの決まった…と申しますと?」(リィ)
「恋人とか結婚相手、とか。」(デスラー)
「え…いえ、あの、全くいません。」
王家の血を引く娘であれば許嫁がいてもおかしくないだろう、が自分はベムラーゼへの献上品…
「私はベムラーゼへの献上品だったのですから…。」
リィがポツリとつぶやく。
「ガルマンガミラスが解放した後、縁談の話などなかったのか?」
リィはちいさくうなずいた。誰が好き好んでベムラーゼへの献上品だった自分など相手にするか…そのために贅沢に育て上げられていたのだから…。
「リィ殿は過去に囚われすぎていないか?」
デスラーの言葉にハッとするリィ
「リィ殿が女性として生まれてしまったからそれは仕方ないことかもしれないが
今は誰もベムラーゼの事など知らないのではないか?母星ならまだしもここは
ガルマンガミラス。誰もそんな事知らないのだから。」
デスラーはグラスを空にした。すぐにリィが酒を注ぐ。
「私のよく知る三人の女性の事を考えていた。強い女性ばかりで…美しい女性
だった。でもその美しさは芯の強さからだったといえよう。」
リィはデスラーが寂しそうに笑うのを初めて見た気がした。
「彼女たちは愛に溢れていた。誰もにその愛を惜しみなく注ぎそのうちの二人は
その愛故に命を落としている。」
リィはその言葉に衝撃を受けた。
「ではその方はすでに…?」(リィ)
「亡くなっている。そのうちの一人の名が…スターシァ…。」(デスラー)
「それは…ガルマンガミラスの双子星の名…。」(リィ)
デスラーは静かにグラスを傾ける。
(スターシアさん…それが総統の愛する方の名前…すでに亡くなられている方の
名前を付けるほど愛された方なのですね。)
リィは何かに心臓を掴まれるような苦しい感じがした。
「しかし…彼女には伴侶がいてね。彼女の亡き今、どうしているのか…。」
デスラーは暗黒星団帝国がどこにありその後地球を攻めて来た事など知らない。
「彼女が死んだ時娘がいる事を知った…今となってはどうなったのか全く
わからない。」
デスラーは自傷気味に笑う。それは当時の自分の傲慢さを笑ったものだがリィには苦しみからの微笑みにしか見えなかった。
「ベムラーゼから解放されたのだ…リィ殿も自由になればよいのだ。たまには
自由に出かけたらよい。」(デスラー)
「ありがとうございます。」
リィはそう言ったもののひとりで町へ行った事などない。ましてここはシャルバート。ガルマンガミラスの時も一人で外出した事がなかった。
「しかし…リィ殿はひとりで出かけるなんてしなさそうだな。」
デスラーが核心を突く。
「深窓のご令嬢が一人で町を歩くなどあり得ない事だからな。」
ルダがひとりで外出する事などないだろうと考えると安易に想像できた。
「ガルマンガミラスに戻る事が出来て普通の暮らしに戻ったら私がリィ殿を
いろんな所へお連れしよう。」
デスラーの言葉にリィが驚く。
「余と一緒はいやかね?」
デスラーの言葉にブンブン首を振るリィ。
「よかった。」
心底安心した顔のデスラーに不思議そうな顔をするリィ
「その三人の女性の中で唯一生きている女性が地球人で…それは美しい女性でね。
亡くなったもう一人の女性にとても似ていた。亡くなっている二人は姉妹だった。
その妹君によく似ていた。彼女はヤマトに乗っていた。」(デスラー)
作品名:ガルマンガミラス滅亡の危機4 作家名:kei