ガルマンガミラス滅亡の危機5
デスラーは床に座って泣いているリィの手を取り立たせるとソファーまでゆっくり歩き静かに座らせた。
「すみません…。」
リィがやっと声を出した。すこししゃくりあげながらだったが。
「ルイサー殿は大丈夫だったか?」(デスラー)
「父は気丈にしておりました。でも母が体調を崩しベッドから起きられない
状態で…私は母を看ておりました。」(リィ)
「そうか…今まで母星が無事だと思って頑張っていたのだろう。」
デスラーの言葉にリィも頷く。
「リィ殿、なにも心配することはない。」(デスラー)
「総統…父はガルマンガミラスでなにかできる事はないか、と申しております。
自分に何ができるかわからないけれど、総統のお役にたちたい、とそう…。
父の元にはアンダンから一緒に来ている使用人がおります。今後、どうやって
この人数を路頭の迷わせず暮らして行けるか…ご相談したいと。」
リィも少し落ち着いたようだ。
「使用人は何名だ?」(デスラー)
「10名程でございます。」
一国の代表として来ているには少ない人数だ、とデスラーは思った。経済的にもそれだけ送るのが精いっぱいだったのだろう。
「わかった。それはタランと相談する。」
リィはデスラーの言葉に心底ほっとした。
「ありがとうございます。父も安心すると思います。」(リィ)
「アンダンは植民地化されて随分苦労した星だ。その報告は聞いている。
そのような苦労は二度とさせない。」
デスラーがはっきり言い切った。
「落ち着いたかね?」(デスラー)
「はい。」
リィは不思議だった。先程の不安を全く感じない。
「お帰り…リィ殿。」
不意にデスラーがリィを抱きしめた。リィは突然の事で慌てたがなぜか自分の全てが包まれるようなそんな不思議な感覚を感じた。そのひろい胸のなかの居心地がよくていつまでも身を委ねていたい、そんな感じが自分の心にある事に気付いた。
話しは少し遡る。
デスラーは少しいらいらしていた。それは戦闘中のピリピリした感じとは違いなぜかいらいらしている。タランはそれが目に見えていたので敢えて知らないふりをしていた。
「タラン副総統、デスラー総統をどうにかしてください。」
護衛兵から苦情があがる。余りにもピリピリしすぎてとばっちりを受けないか心配なのだ。もっとも近しい護衛兵はアンダンの姫の護衛に回ってしまったので信用できる護衛がいなくなったせいだと誰もが思っていた。
「デスラー総統。」
執務室で休憩をしている時だった。デスラーは暇さえあれば窓の外を見る。
「デスラー総統。」
二度よばれてデスラーはタランの顔を見た。
「重症ですな。ここはシャルバートではございません。中庭を見てもどなたも
いらっしゃいません。」(タラン)
「中庭?」
タランはデスラーのその“中庭?”という問いに頭を抱えそうになる。
「誰をお探しですか?」(タラン)
「誰を…と言われても?特に誰も探していないが?」(デスラー)
「総統はシャルバートでもそうやって中庭をよく見ておいででした。」
タランの言葉にデスラーがシャルバートの中庭を思い出す。
(シャルバートの中庭に何かあったか?)
デスラーに貸し与えられた宮殿の中に小さな中庭があった。
(リィとラージベル…?)
デスラーはそう言えばよくふたりが話していたのが中庭だった事を思い出した。
(それが…?)
デスラーは考える。
(何を話しているのだろう、と思ったことはあったが?)
そこでタランが口を挟んだ。
「いいですか?手遅れになっても知りませんよ。」
タランはそう言うと執務室を出て行ってしまった。
「手遅れ?」
デスラーはタランの言った意味が全く分かっていない。そこへサランがお茶を運んできた。
「失礼します……あら?タラン様は?」
以前は毎食事、休憩は酒だったがシャルバートでルダがよく茶を運んでくれていたので夕食以外は茶を飲むようになっていた。サランは“お珍しい”といいながら2客分のカップに茶を注ぐ。
「すぐにお戻りになられますか?」
サランがデスラーにそう聞くとデスラーは一瞬困った顔をしたが
「今、出て行ってしまった…サラン、余の相手をせよ。」
リィが来る前、就寝前以外の酒の相手を何度かした事のあるサランは笑顔で“はい”と答え静かに座った。
作品名:ガルマンガミラス滅亡の危機5 作家名:kei