神のまにまに
ようやく、そんな日常にも慣れてきた。
平和と呼べなくもない、ゆるゆるとした穏やかな毎日。
そんな日々の中で、僕はひとつの事実に気づいていた。
(……命日、か)
彼女を永遠に失った、あの日。
別れの言葉を交わすこともできなかった。
彼女が何を思って僕を庇ったりしたのか、その意図を問いただすことさえできず、返せる当てのない大きな借りを抱えたまま、僕は大人になってしまった。
能力が戻ったことを理解したとき、僕は真っ先に彼女を探した。
けれど、今も彼女は、夢にさえ現れてはくれない。
(まったく……、薄情な妹ですよ、貴女は)
口許がぎこちない笑みに歪む。
いまだに苦くて飲み込めない。
だが、その苦さにさえ、いつか慣れていくのだろうか。
大人になりきれない大人の僕は、かき消える花の香りを辿りながら、ふとそんなことを思った。