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オリジナルの話

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そして各惑星の五体の防人の稼働停止の一番の理由は、遥か過去からの遺物と言って間違いのない程に、大変旧型となっていたからである。
五体の後を襲う模倣タイプの作成案が先ずブラック、レッドから出て、グレイ、グリーンもこれに従った。作成、維持費は従来の七割以下……とまるで、消耗品を買い替えるかの様に淘汰されていった。
模倣型の機械には戦闘以外のプログラムは一切搭載しないと言う。それはごく初期の現段階での決定事項であり、また顔も目も髪もない、人間とかけ離れた人型とも伝わった。
(……劣るものは排除され然るべき。……特に前まで彼がいた暗黒惑星ではそれが顕著だった。)

防人の任を解雇され、数百年の時を経て五体……五兄弟は揃い、再会を果たした。
弟達の顔を見た途端に、私は防人としての責務を果たせなかったと膝を付いた長兄と、それを懸命に慰める末弟。
雷は……愛している事が理由ではないのだが、ただ黙り何も言わぬ刃が非常に心配であった。
本来は五体の中で最も戦いに不向きな性質を持つ刃が、争いの絶える事のない非情の最終惑星に配置され、映像にも流出する情報にも彼が戦い続け、暗黒惑星の防人は掃除屋だと、その類の話ばかりがグリーンにも伝わっていた。それ程まで戦い続けていたこの男がその全て……存在意義を失ったのだ。
……残された時間を穏やかに生きましょうとも、僕がアナタの目になるとも言えなかった。刃に声は掛けられず、掛けてはいけないと雷は思っていた。
製作者から与えられた力は五分で同じ。しかし片や数え切れぬ命を断ち、恐れられ憎まれ恨まれ続けながらも尚武器を持った兄。
片や中立を掲げる惑星の下で、半ば防人の役割を放棄していた弟。
防人として刃と自分には天と地程の差があった。
同等の戦士であるならば刃に対し何らかの言葉を掛けるべきだっただろう。
ただ、愛し愛され肉体的な関わりを持つからと言って、到底及ばない存在である傷心の刃に対し、今口を利く事はプライドが許せず、ただの甘えでしかないと雷は思った。

こんな形で再会したくなかった。
五体全てがそう思っただろう。
五体が各惑星に配置される以前に居た時よりぐんと人の数が減ってしまった、老朽化した母星ブルー中央軍事センター。
その外が良く見える広い窓のある一室の中で刃と雷は座っていた。
武器を置き時折呆然としている気力のなくなった刃を、一人で彼の私室に閉じ込めておきたくなかった雷が、せめて外部の見える場所へと刃を連れ出したのだった。
二人は共にいる事が多く、それを見た軍事センターの者達は、やはりあの元防人達は……と、未だに残っていた彼等の噂をくすぐったそうに口にした。
それについて刃も雷も何も言わなかった。
茫漠と日々を消化する刃の傍らに、雷は控えていたが、必要以上に話そうとはしなかった。
ただ刃の心の赴くままに。それが一番良いと思ったのだろう。
いつかは分からないが、確実に機能停止となる。
その後は次に、いつ目覚めるかは分からない。破壊される事はないだろうが、新型の人型兵器が作成されるのだから、旧型である自分達は再起動する可能性はない方が高い。
以前にも増して寡黙になった刃が、そのままの姿勢でぽつりと口を開いた。
「あれから落ち着いたか?」
「もう大丈夫ですよ」
そう返す。自分の心が塞がっている状態でありながら雷や他兄弟を思うこの性質に雷は惹かれ続け、同時に切なくも思っていた。

五体を将来に機能停止にする事が確定した際に、ブルーに滞在していた科学者達と一部の芸術家達からある案が提唱された。
ブルーの先人達の遺産を中央軍事センターの片隅に捨て置く事は惜しい。ブルーの過去の技術を残す意味で、かつて宇宙船ノアを置いていた宇宙開拓博物公園の屋内に、機能停止後の防人達を陳列させてはどうか……と。
案はブルー中核部の高官に届き、有職者たちを交えて論議されたが、この人口が少なくなった現在のブルーでは、完全な保存の為の維持費はとても捻出出来ない。そもそも各惑星共そう言った費用の削減も兼ねて五体の機能を停めるのに、動かなくなった言わば器に莫大な金を使う訳にはいかないと却下された。
それであれば一体だけでも博物公園の屋内のケースに置き、開拓史の中の戦史の重要資料の一つとして陳列すればどうかと言う案も出て、こちらは呑まれた。一体であれば維持費は悩みの種になる事も無く、また博物公園内の数多くの既存の一級資料を押し退ける事なく並べる事が出来る。
ならば早速、何号機を……と話が進み、やがて四号機、お前だと雷に通告が届いた。流石にブルー上層部の者達も自らの星の防人であった三号機……紅を晒し者にする気はなかったらしい。ブルーの元防人は機能停止後も厳重に軍事センター内部に保管をすると伝え聞いた。
人目を引く、見世物に都合の良い姿形であるから選ばれたのだろう。
雷は強く拒否した。
恐らく二度と覚醒する事はないだろう機能停止。人で言う死は構わない。
しかしお前達はその死後に私を見世物にし辱めるのかと叫んだ。
本心はせめて、二度と動かなくなってしまうのであれば兄弟達と共に永遠の眠りに就きたい。ただそれを思っていた。
髪も目も皮膚も性質も他の四体と異なった雷の最期の願いがそれであった。
しかしいくら一機の機械……しかも役割を終えた言わば不要品が叫んでもブルーの上層部に受け入れられる事はなかった。
機械は機械であり、人間の指示に従えば良い。
それが大半の人々の考えであった。

もう大丈夫と言った雷に、刃はまた黙ってしまった。
そうか、とは言えない。このどこか感情に未成熟な部分のある弟が、自分達に対するこの利己的な処置に理解を示したとは思い難い。
それどころか刃自身も、口に出しても叶わぬ事なので言わなかったが、雷に対する処置に強く怒りを持っていた。
これが数百年以上精神をすり減らしながら戦い続けた防人達に対する仕打ちか、弟はお前達の人形ではないと。
何より刃の本心もまた、雷と同じであった。
人の命を奪い続けて来たこの身、我儘である事は分かっている。
しかし最後にこうして再会する事となったその兄弟達と同じ場所で。
全てを終わりにしたい。
だから、もう大丈夫ですと言った雷に対し、刃は不満の思いを持ったのかもしれない。
お前が側にいなくては駄目なのだと。

ただ静かに日々が消化される中、雷はそれだけを思う様になっていった。
機械製のこの体だけが残るなら。その時にもう自我などは残ってはいないけれど、この身を見る人間達よ、どうか分かって欲しい。
数え切れぬ程の命を断たざるを得なかった私達五体の機械は皆、人と変わらぬ思いを持っていた事を。
二度と覚醒しないだろう機能停止。人で言うのならば死か。
死は怖くない。兄との繋がりも断ち切れる。
それは最早避けられぬ事。
だが、兄と私の関係が後々も伝承するのであれば、私の事は捨て置いて良い。
動かぬ私の抜殻を見掛けた時に、その性格故非情の道を歩まざるを得なかった兄が、柔らかで暖かい人の心と防人の宿命の狭間で葛藤していた事を。
作品名:オリジナルの話 作家名:シノ