機動戦士ガンダムSEED DESTINY~Flugel~
朝の日差しがミネルバを照らし、船体を覆う朝霧が少しずつ晴れていく。
発進準備を終え、ついにダーダネルス海峡へと出港するのである。
その甲板にアスランはいた。
その背に突然声をかけられた。
「オーブにいたのか。大戦の後ずっと」
時折吹く海風に髪を押えながら歩いてきたのはハイネだった。
「いい国らしいな、あそこは」
「えぇ、そうですね」
「このへんもいいとこだけどな」
「はい…」
アスランの返事には力がない。
前回の戦争終結後、アスランはアレックス・ディノと偽名を使ってオーブへと亡命していた。
そして、戦友であり恋人でもあったカガリ・ユラ・アスハがオーブの代表首長へと就任するにあたり、その護衛としてカガリの側にいたのである。
「ならお前、どことなら戦いたい?」
「えっ…、いやどことならって、そんなことは…」
「あ!やっぱり?俺もそうさ」
「そういうことだろ。割り切れよ、今は戦争で俺たちは軍人なんだからさ。でないと 死ぬぞ?」
「……はい」
ハイネの一言がアスランの胸に刺さる。
オーブには中立を貫いてほしかった、こんな戦いの為に復隊したわけじゃない、カガリさえオーブにいれば…。
そんな思いを心の底へと押し込め、拳を握る。
ハイネの去った甲板でアスランは一人戦う決意を決めたのだった。
場所は変わり、オーブ軍大型航空母艦タケミカズチ級艦内にて、地球軍側から総指揮を任されているネオ・ロアノーク大佐とオーブ艦隊代表のユウナ・ロマ・セイラン、艦長トダカ一佐、副館長アマギ一尉によるブリーフィングが開かれる。
「ふむふむ、黒海、そしてマルマラ海…。私ならこのあたりで迎え撃つかな。ここなら海峡を出てきた敵を撃っていけばいいんだから。そう考えるのが最良かと。
ザフトにはあのミネルバがいるようですが、あれが要というのならミネルバを撃てばあちらは総崩れになるでしょうし」
そう言いながら得意げに地図をなぞるのはユウナである。
それにたいしてネオが続く。
「さすがオーブの最高司令官殿ですな。頼もしいお話です。では先陣はオーブの方々に、左右どちらかに誘っていただければこちらがその側面から、ということで」
「あぁ、そうですね!それが美しい」
「海峡を抜ければ、すぐに対敵すると思いますが、よろしく頼みますよ?」
「えぇ、お任せください。我がオーブ軍の力、とくとご覧にいれましょう」
トダカとアマギが呆れ顔をしているのに気づきもせず、ユウナは息を巻く。
戦闘が始まれば大きな被害がでるのは避けられない、ましてや敵には音に聞くミネルバもいるという。
そんな相手に対して先陣を切るのがどれだけ危険なことか。
戦争を数字や功績でしか判断できない上層部に呆れながらも、軍人としての責務を果たすため、タケミカズチは往く。
この後の運命を暗示するかのような荒れ狂う海を。
作品名:機動戦士ガンダムSEED DESTINY~Flugel~ 作家名:Leyvan