機動戦士ガンダムSEED DESTINY~Flugel~
遂に黒海へと辿り着いたミネルバは戦闘態勢をとる。
「コンディションレッド発令。ブリッジ遮蔽。対艦、対モビルスーツ戦闘用意!」
タリアの発令により艦内に戦闘態勢を知らせるブザーが鳴り、一層緊張した空気に包まれる。
そのブザーをパイロット用の更衣室で聞いていたアスランは、苛立たしげに扉を叩くシンを見かけ声をかけた。
「おいシン、どうしたんだ」
「別に、どうもしませんよ。オーブっていったって今はもう地球軍なんでしょ?」
シンとオーブには浅からぬ因縁がある。
元々シンは中立国であるオーブに家族そろって暮らしていた。
前大戦において、地球軍側に協力しなければオーブを侵攻すると声明を出され、それを拒否したオーブと地球軍による戦闘が始まる。
その戦いのなかで家族と一緒に逃げていたシンであったが、その最中モビルスーツの流れ弾によって目の前で家族を失っている。
そうした経緯からシンは戦争自体をひいてはオーブを大きく憎んでいくことになる。
「シン、君は本当はオーブが好きだったんじゃないか?だから頭にくるんだろ?今のオーブ、オノゴロで君の家族を守れなかったオーブが」
「なっ、違いますよ!そんなの!!」
「…すまない。ちょっと言い過ぎたよ」
「…いえ…」
それっきり二人がその場で言葉を交わすことはなかった。
「熱紋確認!一時の方向、数20!モビルスーツです。…機種特定、オーブ軍ムラサメ、アストレイ!」
敵影を知らせるブザーのなか管制官の声がミネルバのブリッジ内に響く。
報告が終わると同時にタリアの指令が飛ぶ。
「セイバー、インパルス発進!離水上昇、取り舵10!」
ミネルバ上部にあるハッチが開き、インパルス専用のカタパルトが現れた。
「シン・アスカ、コアスプレンダーいきます!」
続いてチェストフライヤー、レッグフライヤーが射出され空中でドッキングする。
ヴァリアヴルフェイズシフトが起動し、青と白を基調としたフォースシルエットのインパルスが宙を舞う。
「アスラン・ザラ、セイバー発進する!」
カタパルトから発進したセイバーもヴァリアヴルフェイズシフトを起動させ、深紅の軌跡を描き空に躍り出た。
遂にオーブ、地球軍連合とミネルバ率いるザフトとの戦いが始まろうとしていた。
ダーダネルス海峡にてミネルバとオーブ艦隊が交戦するより少し時間は遡る。
オーブにてカガリの政略結婚阻止のためにカガリを拉致し追われる身となったアークエンジェルは、スカンジナビア王国にて匿われていた。
現在はブリッジにて今後の話し合いをしている。
これからどうするべきなのか、何が真実なのか見極めるまでは大きな動きはできない。
そう答えが出そうな矢先、戦場カメラマンとして世界を飛び回っていたミリアリア・ハウよりオーブ艦隊が連合と共にザフトと一戦交える可能性があると秘匿回線へ連絡があった。
他国に侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない。
それこそがオーブの理念であり、中立国家としてナチュラルとコーディネーターを分け隔てなく迎え入れるという前首長ウズミ・ナラ・アスハの悲願でもあった。
それが今、大きく裏切られようとしている。
カガリはただ迷っていた。
自分が今なにを為すべきなのか。
自分は今どう動くべきなのか。
自分がどうあるべきなのか。
自らの肩を抱き、震えるその肩に手をおいて声をかけてくるものがいた。
「いこう、カガリ。何が本当に正しいのかまだはっきりとはわからないけど。
それでも、オーブに撃たせちゃいけないって事だけは、わかっているでしょう? ならいかなくちゃ、また大きな犠牲が出る前に」
キラ・ヤマト
前大戦終結に大きく貢献した彼もオーブにて隠居生活を送っていたが、一緒に住んでいたラクス・クラインを暗殺しようとしたコーディネーターの特殊部隊に襲われ、またアークエンジェルへと戻っていた。
「キラ…」
力無く返事を返すカガリを安心させるように軽く頭を撫で、艦長席に座っている女性に声をかけた。
「マリューさん、いいですか?」
「ええ、もちろん。カガリさんがそう望むのなら」
マリュー・ラミアス
前大戦にてアークエンジェルの艦長として指揮を執っていた女性士官で、終戦後はキラたちと一緒に暮らしていたが襲撃に巻き込まれ、再び艦の指揮を執ることとなった。
「艦長…キラ…、すまないどうか戦場に向かってほしい!」
涙を隠そうともせず叫ぶカガリに微笑みながらマリューは指示を飛ばす。
「本艦はこれより黒海に向かいます。総員発進用意!」
こうしてダーダネルスに向かいはじめたアークエンジェル。
ここから少しずつ、世界の歯車は回り始める。軋む音を響かせながら。
作品名:機動戦士ガンダムSEED DESTINY~Flugel~ 作家名:Leyvan