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チビエド事件簿

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エドワードがふたたび儚げな眠りから眼を覚まし、常の粗暴さを取り戻したのは、全てが終わった頃だった。犯人の男は気絶したまま逮捕され、軍の病院に担ぎ込まれた。夢中になってエドワードを追いかけていたくせにエドワードに負わされた怪我はかなり重く、しばらくは治療に専念しなくてはいけないらしい。回復すればすぐにも事情聴取が始まるだろうが、その担当になんとあのアームストロング少佐がつけられそうだということで、男はベッドの中で動けないまま毎夜うなされているという。
まあ、これも自業自得だということだろうか。

それは置いておいて、エドワードは目覚めた直後にロイに呼び出しを受けた。理由はもう分かっていた。単独行動に出ようとした挙句、逆につかまって危険に身をさらすことになってしまった。その咎めを受けなければならないのだろうということも。

「でも、オレがこう捕まったからこそ犯人が早く捕まったっていうこともあるよな」

そうアルフォンスに同意を求めてみるが、アルフォンスは首を振るだけである。

そのうちにロイの執務室前に出て、エドワードは重たい気持ちを振り払おうと大きく被りを振った。そして、勢い良く扉を開け放つ。
「いよっ、大佐! 今回はちょっとへましちまって捕まっちまったけど、結果オーライでよかったよな!」

反応はなかった。
初めは勢い良く飛び込んだエドワードも、その重苦しい雰囲気に肩を萎めて行く。

「鋼の」

ロイの低く響く声と深い濃紺の瞳がエドワードに厳しく迫る。

「君は今自分がどういう状態なのか分かっているのかね。事故とはいえ、君は今明らかに幼い子供だ。それが一人でふらふらと街に出るなど、自分から危害を加えられに行くと同じではないか。まして、今はまともに錬金術も使えない。今回は運良く助かったが、下手をすれば君もセオドア君と同じ運命をたどっていたかもしれないのだぞ!」
「そうよ。エドワード君。私たちがどれだけ心配したか。お願いだから、もう二度とこんな真似はしないで頂戴」
ロイとホークアイ中尉の言葉に、他の一同も大きく頷く。

一層、エドワードは身をすぼめるしかない。
「ごめん、なさい……」

か細い謝罪はほとんどが床に吸い込まれて消えてしまったが、それでも周囲の大人たちを納得させるには十分だった。
うつむき、首をすくめるエドワードの金色の頭を、大きな手のひらが包み込んだ。

「セオドア君のご両親が言っていたよ。君だけでも助かって良かった、とね」

肩をすぼめていたエドワードが、その台詞にはじかれたように顔を上げる。そこでエドワードが見たのは、もう怒りの厳しさをあふれさせる存在ではなく、優しさをたたえる温もりだった。
もう一度だけエドワードは顔を伏せた。迷惑をかけたのにそんな優しさに包まれるのが、ひどく申し訳なかった。

だが、そんなエドワードの足元に、はらりと一枚の紙切れが滑り落ちる。目の前に立つロイの懐から落ちてきたものだ。
エドワードは条件反射でそれを拾い上げようとした。

「そ、それは!」

ロイが明らかにうろたえ、それが何なのか気付いたのは、エドワードがその写真を拾い上げた直後のこと。ロイの顔色が、次第に青に染まり、だらだらと汗が流れ落ち始める。
対してエドワードの顔色は、無に等しかった。彼の周りだけ、気温が十度ほど下がったよう。

「おい、大佐」

見かけは子供のくせに、その声は低く重く響いた。
ロイが真っ青な顔の上に引きつった笑みをのせていた。

「な、何かね。鋼の」

「何かね、じゃねー!! なんであんたがこんなもん持ってんだよ!!」

突きつけられたのは、一人の幼女の写真だった。色とりどりの鮮やかな花に囲まれ、小さなクマのぬいぐるみを抱いて眠る、金髪の少女。小さな金色のみつあみやドレスの各所にも花がちりばめられて、一見しただけではプロの作品と言えなくもない。

だが、その写真を握り締める手に次第に力が籠もり、震えていくのは、それが明らかに今現在の所持者その人の写真だったから。つまり、かの男との戦闘後、疲れて眠りこけたエドワードの写真だった。

「いつの間に、てめぇこんなの撮りやがった」

幼くて愛らしい天使の笑みを見せていた少女は、今や頬肉が引きつり、鬼の形相。

詰め寄られるロイは、言葉を詰まらせながら、周囲を見渡す。しかし、彼の周りにいる者たちは皆素知らぬふり。

「貴様ら! 私だけに責任を押し付けて逃げるのか!」
「いや、でも、大佐。こんな可愛らしい姿滅多に拝めないんだから写真を撮ろうって提案したの、大佐じゃないっすか」
「そうそう、セッティングだって大佐が率先して……」
「ほほーう。つまり、これは全部ロイ=マスタング君の独断と言うことかね」

ぼきんごきんと、エドワードの拳が鳴る。
その合間に、他の男性陣はエドワードの背後にまわってそうでーすと控えめにエドワードの言葉に賛同した。

「き、貴様ら!」
「他人に責任を擦り付けるなんて、良くないぜ~、大佐。さあ、さっさと他の写真とネガ出してもらおうか。さもないと……」

ぱんと、エドワードの両手が重ねあわされる。

エドワードは子供、ロイはれっきとした大人。だが、このときだけはその立場が逆転して見えた。

じりじりとロイは後退する。

「かくなる上は……あ、あんなところに賢者の石が!」
「何ぃっ!?」
突然ロイが指差した方向に、エドワードはとっさに振り返った。つーか、なんでそんな子供だましに引っかかるんですか。エドワード君。

「これでもくらえ、鋼の!」

振り返ったエドワードの背後に、何かが風をきって迫る。
反射的に振り返りなおした目の前に、自分の顔。先日アルフォンスが錬成したエドワード人形だ。

「どわ~~~っっ!!」

その瞬間、青白い閃光が司令部内を駆け巡り、何かが爆発した。

集まっていた一堂は皆壁際まで吹き飛ばされた。ロイは吹っ飛ばされた反動で頭と脚が逆さに着地して、数十秒の格闘の後ようやく身を起こすことに成功した。白い煙幕が辺りに立ち込め、何も見えない状況で、本人にとっては幸いだったことだろう。

「皆、大丈夫か!?」

ようやく態勢を立て直し、煙幕の向こうにいるはずの面々を呼ぶ。
方々から彼の部下たちの落ち着いた声やら騒がしい声やらが上がる。アルフォンスの幼い反響音も届いた。だが、ただ一人。この爆発の中心部にいた少年の声だけがない。

「鋼の! 大丈夫か!? 返事をしろ!」

ロイの脳裏を、雑音が走った。切れ切れの映像の中に浮かぶのは、焼け爛れ、血にまみれた幼い子供の姿。

「げっほ、ごほ、なんだってんだよったく!!」

白煙にむせ返るいつもの悪態に、ほっとロイの胸が下がった。立ち込めていた煙も次第に晴れていき、お互いの姿が確認できるようになる。

そこで、エドワード以外の一同は呆然としてしまった。そんな彼らを見て、エドワードは怪訝な顔で首を傾げる。

「みんな、何変な顔してオレのこと見てんだよ」

そう問われて、一同は顔を見合わせた。ロイとアルフォンスだけがしばらく考え込んだ後、納得したように手を叩いた。
作品名:チビエド事件簿 作家名:日々夜