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チビエド事件簿

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翌日、エドワードはアルフォンスとともに再び東方司令部へと向かっていた。マスタング大佐の調べてみようという一言に、到底期待は持てなかったけれど、今のエドワードにはそれしか縋るものがない。後のことを考えるとここで貸しを作るのは気が進まないが、それも致し方ないだろう。

ああ、どうかいい情報がありますように。それから、昨日のような騒動にはなりませんように。

そんな祈りを天へ投げかけながら、エドワードはなかなか進もうとしない足を、どうにか前へ向けていた。

そんなエドワードの耳に喧騒が届いたのは、もう数百メートルも行けば司令部と言う、公園の前を通りがかったとき。

市民達が公園の周りに群がってひそひそと囁き合い、その脇を慌しく憲兵が行き来する。

何があったのだろうか。

普通に疑問に思ったエドワードは、自然に公園の人だかりの方へ足を向けていた。

「何かあったんですか?」

いつもよりも背が低いから、人だかりを掻き分けて前に出ることも出来ず、エドワードは背後から人だかりに声をかけた。

すると、振り返ったどこかのおばちゃんがエドワードの小さな姿を見つけて顔色を変える。

「あんたみたいな子供が見るようなもんじゃないよ。お行き!」

真っ青になって、おばちゃんはエドワードの背中を押し、公園から遠ざけようとした。その対応にエドワードは戸惑った。

「ちょ、ちょっと待ってよ、オレは!」

子供じゃない!

そう叫ぼうとしたが、その前に今度は憲兵が集まってきて市民達をも追い払う。それに巻き込まれて、エドワードたちも結局公園を離れざるを得なかった。



「ったく、みんなしてオレを子ども扱いしやがって!」

公園から司令部へと再び向かいながら、エドワードは肩をいからせていた。

「仕方ないよ。今の兄さんはどう見たって子供にしか見えないんだから」

「そもそも、これは皆お前が変な錬成するからだろ!!」

エドワードの背伸びをした精一杯の反論に、アルフォンスは言葉を詰まらせた。

それは確かに、変な錬成をしたのはアルフォンス自身だけれど、立入り禁止の張り紙を無視してノックもしなかった兄さんの責任もあると思うんだけど。

こっそりアルフォンスはそう思うのだが、それを口にすればエドワードが今よりも怒るからあえて言わない。

そうこうしているうちに司令部の庁舎にたどり着き、二人はとりあえずの期待を胸に、ロイ=マスタングのいる司令官室へと向かった。

いくつかの階段といくつかの曲がり角を過ぎて、二人は大仰な扉の前に立つ。

ここまでの道のりがやけに遠く感じられ、そしてこの扉がいつもよりも重苦しく感じるのは、きっと今の気分が最高に憂鬱なせいだ。断じて身長のせいではない。強く自身に言い聞かせ、エドワードはドアノブに勢い込んで手をかけた。

だが。

「兄さん、開けようか?」

「いい! これいくらい自分でする!」

そう、剥きになってアルフォンスの助けを拒む声は、踏ん張っているせいで震えていた。

やはり昨日と同じで、エドワードの小さな手は背伸びしたくらいではドアノブにかすりさえしない。がんばって飛び跳ねたりもするものの、今度は届いたとしても曲線を描くドアノブは、つるりと滑って回すことが出来ない。

それでも意地になってドアノブに飛びつくエドワードを、アルフォンスは途方に暮れながら見守っていた。

いいかげん現実を見つめようよ、兄さん。

そう心の内では呟いていても、やはり兄の反論を考えると、声にすることはできないアルフォンスだった。

「くそ! あとちょっと…!」

何度目だろうか。やっとエドワードが丸いドアノブを掴みかけたときだ。

不意にドアノブが遠ざかった。その勢いに引かれて、エドワードの小さな身体が前方に傾く。

傾けば、子供は頭が重い。このままでは床に顔面強打か。エドワードは反射的に目をつぶった。

「大丈夫か、大将!」

急に、倒れていく感覚がなくなった。エドワードの身体を、誰かの腕がひょいと掬い上げたのだ。アルフォンスではなかった。アルフォンスの腕だったら鎧だから硬いが、そうではない。

では誰が?

顔を上げて、エドワードは凍りついた。

それは扉の向こうから現れた、ハボック少尉だった。

ぱっと浮かぶのが、昨日の騒動。

「ぎゃー! 離せ――!!」

「うわっ、んな暴れんなよっ」

いきなりじたばたと腕の中でもがきだしたエドワードを、半ば放り出すような形でハボックは床に下ろした。下ろされたエドワードはすぐさまハボックから飛び退り、身構える。

まるで気の立っている猫だ。

だが、ハボックは少しばかり呆れたようにがしがしと頭を掻くと、エドワードの脇をあっさりと通り抜けた。

「わりーな、大将。今は遊んでる暇はねーんだ。また今度にしてくれや。ああそれから、今は入んない方がいーぜ」

そう言い置いて、駆け足でハボックは去っていく。その後ろ姿を、エドワードは目を瞬かせながら見送った。

「何なんだ?」

エドワードはポツリとつぶやいた。

昨日は散々弄んでくれたって言うのに、今日のハボックはあまりにそっけない。むしろ、真面目な軍人そのものだった。いや、それが普通の姿というものなのだろうけれど。気負いすぎて、エドワードは逆に拍子抜けだ。

「で、兄さんどうする?」

「何が?」

「だから、ハボック少尉が今は入らないほうがいいって言ってたじゃない? もしかしたら忙しいのかもよ」

ほら、公園でも何かあったみたいだし。

と、先ほどあったことを振り返る。

確かに、公園であったことのせいであんなにもハボック少尉が慌てていたのだとしたら、今この中はてんやわんやだろう。それを自分たちが飛び込むことで邪魔するわけにもいかない。それに、そんな状態なら余計エドワードの解決策は期待できそうもなかった。

「仕方ない。今日はあきらめて…」

そう、踵を返そうとしたときだった。

「大佐、こちらが資料です」

ハボック少尉が閉め忘れたらしい扉の向こうから、耳慣れた声が聞こえてきた。凛としたその声に気を引かれ、二人はなんとはなしに隙間の向こうを気にかけてしまった。それはここにいればよく聞く声だったし、その口調はいつもとはそう変わらないように思えたのだが。次の台詞が、二人の平静を奪った。

「被害者はセオドア=バートン君6歳。何者かによって頭部を切断され、公園に放置されていたところを、今朝通行人によって発見されました」

ざっと、エドワードは血の気が引くのを音で聞いた気がした。

「どういうことだよ!」

エドワードは気がつくと扉を押し開け、部屋の中に飛び込んでいた。

ホークアイ中尉が言った公園というのは、おそらく先ほどの公園のことだろう。

頭部を切断?

しかも、6歳の子供が?

なぜ!

怒りが身の内で沸き上がった。

なんでそんな子供が、そんな無残な殺され方をしなければならない!

「鋼の、聞いていたのか」

突然飛び込んできたエドワードに、執務机から腰を浮かせかけてロイは狼狽した。傍らのホークアイも、エドワードがいる前であんな報告をしてしまった自分のタイミングの悪さを罵るように、額を押さえる。
作品名:チビエド事件簿 作家名:日々夜