チビエド事件簿
「いったい何があったんですか」
問うアルフォンスに、ロイは首を振った。
「今更こんなことを言っても君たちは納得しないだろうが、これは君たちには関係のないことだ」
「でも!」
「私からもお願いするわ。この件は私たちに任せて頂戴。特に、エドワード君は元に戻る方法を探すことが先決でしょう?」
今は手を放せなくて手伝えないけれどと、すまなそうにホークアイはエドワードの前にかがみ込む。
「すまないな。私もこれから現場へ行かなくてはならないんだ」
そう言って立ち上がったのはロイだった。
だったらオレも行くと、エドワードは身を乗り出しかける。すると、突然ロイによって差し出された何かが、エドワードをさえぎった。
「子供はこれでも持って、おとなしくしているんだな」
差し出されたのは、小さなクマのぬいぐるみ。
エドワードはぽかんとした。その隙ににっこりと笑顔を作って、ロイはそのクマをエドワードの腕に抱かせてしまう。
「テディベアだ。可愛いだろう。そういえば、君もエドワードだからテディと呼べるし、ちょうどいいじゃないか。なあ、鋼のテディ?」
「な! じょうだんじゃねーぞクソ大佐!!」
明らかにからかっているロイの口調に我に返ったエドワードは、感情に任せてそのぬいぐるみを投げつけた。だがそれはロイに当たることなくあらぬ方向へ飛んでいく。しかも、その隙にロイはエドワードから遠ざかり、既に扉の前に移動していた。
「ひどいじゃないかテディ。"テディ"がかわいそうだろう」
「うるせぇっ!!」
今度は蹴り。でも、今のエドワードでは圧倒的にリーチが足りなかった。
「ははは、残念だったなテディ。行くぞ、中尉。テディ、"テディ"は大事にしてやれよ」
はははと、あいも変わらず陽気なさわやかさでロイは中尉を伴って去っていく。さすがに大人二人の足に追いつけるわけもなく、エドワードはそこに置き去りにされるしかなかった。
そして、エドワードは腹いせに吼えた。テディ、テディと連呼され、結局置いていかれるなんて。
だから、ロイがこの世でもっともへこむであろう称号を、司令部中に響き渡るような大声で。
「不能大佐―――!!」
と。