チビエド事件簿
兄がすでにこっちに来ているなら、当然ロイはもう知っていて、アルフォンスが彼を追いかけてくるだろうと言うことも気付いているだろう。そうでないとすれば、兄はまだ来ていないと言うことだ。
だが、何の事情も分からないロイは首をかしげた。
「まさか、今度は鋼のが行方不明というんじゃあるまいな」
「まさか。兄さんがおとなしく捕まってるわけないと思いますけど」
「だが、今はあのちびっ子状態だぞ?」
「そういえば、錬金術もまともに使えないし…」
「誘拐殺人の犯人もまだ捕まっていない」
アルフォンスは昨日のことを思い出した。
ロイとハボックに追いかけられ、なすすべもなく着せ替え人形と化していた兄のことを。
「……もし、大佐やハボックさんみたいな人が他にもいたら……」
「そうだな、今の鋼のはこう、こねくり回したいほどに愛らしいしなぁ……」
二人の頭の中に、見知らぬ男に弄ばれ、着せ替え人形にされるちびっこなエドワードの姿が思い描かれた。
不意にロイの顔に鼻血が垂れた。
幸い、それを見たものはアルフォンス以外には存在しなかった。
「い、いかん! そんな破廉恥なことを他の男が鋼のにするなど許せん!!」
「そうですよ!! 僕以外の人間が兄さんをいじめるなんて、断固として許可できません!!」
「手の空いているものは全員大通方面だ! 鋼のをなんとしてでも探し出せ!!」
暴走する男二人。
この後、街全体に戒厳令が敷かれたかどうかは定かではない。