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改・スタイルズ荘の怪事件

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2,5章


『イングルソープ一代記「略歴」』から抜粋

共和国【リ・パブリック】からの亡命後、エミリー・イングルソープが公式の場に現れたのは意外にも、統合政府統計局【ミリオンキラー】の局長としてであった。
遺伝工学の泰斗という異色の経歴ながら、彼女はここで政府目標であった七パーセントの非生産的市民の削減を見事に達成し、後の栄光への最初の一歩を踏み出したのだ。当時のイングルソープ局長は、十五年の必要を見込んでいた計画を抜本的に見直し、計画全体をわずか三年にまで圧縮してみせたのである。
この計画はよどみなく遂行され、非生産的市民からの抵抗もほとんど見られなかったため、「非生産的市民と統合政府の見事な結婚」と絶賛され、この言葉はその年の流行語にもなった。また、この時期に書かれた「憎悪の哲学──皆殺しの論理」は士官学校の教科書にも選ばれる名著として知られている。
並行して、ミス・イングルソープは自らが共和国【リ・パブリック】から持ってきた技術のほとんどを政府に譲渡し、現在まで続く七つの大企業の礎を作り上げてもいる。戦中を通して、彼女はこの七つの企業の実質的な経営を任されており、読者の中には軍人としてよりも、経営者としての彼女の方がより記憶に残っているという人も珍しくないはないだろう。
しかしながら、エミリー・イングルソープ最大の偉業は経済ではなく軍事の面で達成されたものに他ならない。それこそが伝説として語り継がれる、反政府派軍人の一掃である。
長引く大戦の影響により、独立性を高めていた軍部と政府との調整。それがイングルソープ准将に与えられた任務だった。
ナノ技術による自給自足がある程度まで可能になった後、戦時下において各地方軍は着々と独立性を強め、事実上の軍閥を形成するまでに至っていた。彼らは統合政府の統治計画にときに反発し、潜在的な反乱分子として認識されていたが、その莫大な武力のため、統合政府も抜本的な対策を取れずにいた。
この問題を解決するために彼女が利用したのが、老朽化が進んでいた大陸鉄道網の再生計画であった。基礎的な自給自足が可能になった後でも、外からの物資の流れを基礎づける鉄道の路線が、軍の有力者たちに取って自身の影響力を左右する重要な存在であることに着目したのだ。
准将は再生計画の責任者に就任すると、それを交渉のカードとし、軍区内の政治バランスに巧妙に介入していった。結果、計画が終了したとき、少なからず存在した反統合政府派はことごとくが失脚し、政府への忠誠心豊かな人物が各軍区の中枢を占める情勢となっていた。その上、新しい鉄道網はその運送効率においても理想的なレベルであり、不必要な線路は一つとして存在しなかった。
「運命すらも差配する」というエミリー・イングルソープの異名は、この時期につけられたものだと言われている。
この功績が認められ中将に昇進した後は、連合軍における兵站などの流通を一挙に担い、俗にISメソッドと呼ばれる革新的なロジスティクスの理論によって、彼女の名声は不朽のものとなる。
この理論が無ければ、統合政府は共和国に勝つことは出来なかったという意見もあるが、客観的に見るのであれば、これは多少言葉が過ぎるだろう。しかし、この理論に大戦の期間を十年縮めるだけの力があったことは間違いない。
エミリー・イングルソープは大戦の終了後、役職に執着することなく中将の座を辞した。
一説には自らの財産の全てを統合政府に返上して、自らは質素な生活を送っているとも言われている。