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改・スタイルズ荘の怪事件

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1,5章


初めて彼女【ポアロ】にあったときのことを永遠に忘れないだろう。背後からさす垂直滑降機のライトの中に浮かび上がった華奢なシルエット。明け透けなほどの強靭な意志が漆黒の瞳から燃え出し、所作は傲慢なまでに洗練の極みだった。その顔に浮かんだ微笑が、今も私の心に焼きついている。わたしは運命に出会ったのだ。
お忍びで前線を視察に来る政府高官の案内。それが当時のわたしに与えられた任務だった。日夜、人殺しに明け暮れていたわたしに、何故そのような任務が下ったのか、その謎は彼女にあった瞬間に泡となって消えてしまった。
「久しぶりだね。お兄ちゃん。」
沈黙。沈黙。沈黙。
わたしの声は恐らくかなり情けないものだったと思う。
「わたしたちの間に何の血縁関係もないと愚考するのですが。」
その弱々しい反論を、彼女は丸ごと受け入れて、歯牙にもかけなかった。
「うん。そうだね。統合政府の四庫全書【アーカイブ】に勝る真実はこの世界に存在しないから。だから「妹」って設定でいいよ。ロールプレイってやつ。」
「お断りします。」
即答だった。確かに、わたしには彼女にそっくりな妹がいたが、世界には三人似た人間がいるという話もある。
「それはお兄ちゃんを殺して、ボクも死んでいいって意味でいいのかな?」
彼女はその猫のような尻尾で、器用にこちらのホルダーから銃を取り出そうとしていた。表情がどう見ても冗談に見えない。
「どうか落ち着いて下さい。それに何の意味があるっていうんですか。」
わたしは目の前の「妹」を見つめながら困惑の声をもらした。少しずつ、死に別れたはずの妹の性格が思い出されていく。
「お兄ちゃんとボクが一緒にいることに意味なんて低俗なもの存在しえないけど。強いて言うなら、踏み絵だね。ほら?お兄ちゃんってボクのものでしょ。」
いつの間にそんなことになったのかと問えば、わたしが生まれてきたときからだと答えるのだろう。答えを聞く前から、そう答えられるのが何故かわたしには分かってしまった。兄のものを全て使い倒して、何ら悪びれることがないのが我が妹なのだ。
「けど、ちゃんとした仕事で一緒になる機会があったら、初対面ってことにしてよね。立場上、そういうのお兄ちゃんのためにもならないでしょ。」
「そもそも、軍属のわたしと官僚である貴方では、仕事を一緒にする機会なんて無いと思いますが。」
彼女はにっこりと笑った。
「貴方じゃなくて、理樹でしょ?」
「頂いた資料の名前は別のものですが。」
その小さな足が、わたしの足の上で踊っている。痛くはないが、何とも言えない圧迫感がある。
「呼べ。」
最初から、勝てる道理などなかった。
「り き」
「なに、お兄ちゃん?」
幸せそうな笑みを浮かべながら、理樹と呼ばれた少女はわたしの周りをくるくると回っている。その姿を見ていると、わたしはもはや逆らう気にはなれなくなってしまった。
「それと、機会は待つものじゃなくて、作るものだから。」
わたしがその言葉の意味を存分に味あわされることになるのは、それから少ししての話である。