敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯
沈没船
最後の〈タイガー〉が降りてくる。その轟音でしばらく話のしようもない。パイロットは古代に銃口を向けたままずっと動かずにいた。別の〈タイガー〉のキャノピーが開き、パイロットが姿を出した。しかしそいつは降りることなく高みから古代に拳銃を向けてくる。
「え、えーと……」古代は手を挙げたまま、「『船』って、この沈没船?」
応えない。
「そっちが連れてきたんだろうが! 見せておいてそれはないだろ!」
「沖縄基地が殺られたからだ!」機上から銃を向けてきている男が言った。「それもお前がつけられたからだ! それがわかってんのか!」
「やめろ」と《隼》機の男。「こいつが悪いんじゃない」
「ですが隊長はこいつのために!」
「やめろと言ったんだ!」
叫んだ。ヘルメットのバイザーを開けて。だから声は直接響いた。別に五分や十分で危険な量の放射線を浴びるというものでもない――そもそも、雑草やゴキブリまでも死に絶えたのは寒冷砂漠化と塩害のためで、放射能はその次だ――しかし、あまり普通にはできないことであるはずだった。男はそのまま古代に向かう。
「あんたが古代か。その〈がんもどき〉でガミラス三機墜としたって?」
古代は気圧(けお)されるものを感じた。拳銃よりその男が体全体で放つ威圧感。がんもどき乗りとトップガンの決定的な格の違い。襟の記章は階級が自分と同じなのを示していた。だがそんなもの意味をなさない。虎にちなんだ黒と黄色のタイガー・スーツ。胸のワッペンに艦載機乗りの錨マーク。
ようやく言った。「さっきので四機だ」
肩をすくめた。「あと一機でエースかい。ネギしょったカモにしちゃたいしたもんだ。だが黙ってろ。殺すとは言わん。ついてきてもらう」
他の二機からもパイロットが降りてきて、古代のボディチェックをした。ケースに入れたカプセルを確認。古代とアナライザーを小突くように全員で歩き出す。
向かうのはやはり沈没戦艦だ。近くで見ると長い長い赤錆の壁。本体はほとんど地にうずまって、横にいくらか傾いてもいる。吹く風に妙な唸りを発しているのは、あちらこちらに開いた穴が笛の役目をするからだろう。
そしてプシューというような音。これはおそらく放射能防護扉が開く音だ。
「え?」
古代は目を見張った。赤錆の固まりと思えた舷の一部が開いて、扉をそこに見せたのだ。明らかに、気圧の差で外の放射能を含んだ空気が中に吹き込むのを防ぐ造りのものだった。すぐ奥に第二の扉がある。中には放射能防護服――それもどうやら、耐スペース・デブリ仕様の宇宙船外作業服のようなものを着たふたりの人間。どちらも手にサブマシンガンを持っていた。
《隼》機の男がアゴをしゃくるようにヘルメットの頭を振る。自分達は中に入る気はないらしい。
古代とアナライザーが入ると外の扉が閉められた。そして内側の扉が開く。
作品名:敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯 作家名:島田信之