敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯
生き別れ
「アナライザー?」
〈ゼロ〉のコクピットで古代は言った。今は古代も機体をホバリングさせている。と、その窓の横にフワフワと急に現れたものがあった。味噌汁碗を伏せたような赤い半球。上にトサカのようなもの。
アナライザーの頭部だけが、古代の〈ゼロ〉の横に浮かんでいたのだった。
『古代サーン』
「あ!」と言った。「お前、何やってんだ!」
『ソレガソノ、ナント言イマスカ……』
「体はどうしたんだよ体は」
『ソレガ、アッチトコッチニナッテ、生キ別レデス……』
「こんなときに遊んでんじゃねえ!」怒鳴った。それから、「山本! いいから先に行け! こいつはおれが連れていく!」
『わかりました』
と返事が返ってきた。オレンジ色のもやの向こうで揚陸艇が動き出すのが見える。
「まったく」とまた古代は言って、アナライザーを見た。「お前の体はどこにあるんだ」
『腰ハ採掘場ノトコロ。胸ハ今コッチニ向カッテキテマス』
「はあ?」
目をこらすとなるほど地上でアナライザーの下半身がウロウロしているのが見える。一体全体どんなバカをやらかせばこんなことになるってんだと思いながら、古代は〈ゼロ〉を降下させた。その眼がふと、採掘場に転がっている二本の貨物ポッドに止まる。
「おい。石の採掘ってのはできたのか」
『エート、確カ、一本分ハ詰メマシタヨ』
「一本だけ?」と言ってから、「待て。必要量の倍を採るって話だったな」
『ハイ。ソウデシタ』
二本のうち一本は詰めた。ならば、〈ヤマト〉がいま必要とする量は確保できたと言うことではないか。
古代はレーダー画面を見た。ガミラスの戦闘機群が迫りつつある。貨物ポッドを装着して、飛び上がるだけの時間はあるのか? わからない。死んで置いていかれたらしい採掘員が転がっているのも見える。〈ヤマト〉はおれを待てないと言った。
ヘタすれば、おれもあそこにある死体と同じように――砂丘に埋まる〈ゆきかぜ〉の姿が頭に浮かんだ。おれも兄貴と同じように――。
だが、ためらう気持ちは消えた。手ブラで〈ヤマト〉には戻れない。やるしかないものはやるしかないのだ。
古代は〈ゼロ〉を貨物ポッドの方に向けた。
作品名:敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯 作家名:島田信之