敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯
赤外線画像
森はどうにか動かせるようになった手で、揚陸艇の航法装置を探っていた。オペレートのやり方は〈ヤマト〉艦橋のそれとさほど変わらない。レーダーには迫りつつある敵の機影。数は十五。
「逃げ切れるの?」
「なんとか、とは思いますが……」
山本が言った。この揚陸艇は古代が前に乗っていたあのカラ荷の〈がんもどき〉とは違う。はるかに重く、後ろに何人も乗せている。振りまわすのは難しい。ビームガトリングガンは対地攻撃用であり、戦闘機と戦えるようなものではない。
そして何より、数は十五だ。〈ヤマト〉の近くにまで行ければ、敵も追っては来れないだろう。問題は、〈ヤマト〉が待ってくれるのかどうか。
森は機体のカメラを下に向けてみた。地表はもう、オレンジ色のもやでまったく見ることはできない。
センサーを赤外線に変え、最大の望遠にする。マイナス180度の温度で真っ暗な画面に、古代の〈ゼロ〉らしきものがいるのが点となって映った。
さらに電子ズームをかける。〈ゼロ〉の姿が大きくなった。粗い像だが、キャノピーが開いているらしいのがわかる。
アナライザーを乗せているのだろうと思った。飛び上がってしまえば〈ゼロ〉は、この揚陸艇よりはるかに速い。追いつくのは簡単だろうが――。
と思ったときだった。操縦席から古代らしき人影が外に飛び出るのが見えた。え?と思う間もなく揚陸艇の機体がカメラのブレ補正の限界を超える揺れを起こし、その後は何も映らなくなってしまう。
急いで拡大率を落とした。小さく〈ゼロ〉の輪郭と、その外に出て動いている人間らしきものが見える。
「何してるの?」
と言ってから、自分がタイタンに降りる前に古代に言った言葉を思い出した――荷物運びは確か専門のはずだったわね?
はっとした。「まさか、ポッドを……無茶よ!」
作品名:敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯 作家名:島田信之