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敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯

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貨物ポッド



「これか! 一杯になってるのは!」

古代は採掘チームが残した貨物ポッドに取り付いて言った。持ち上げてみようとする。が、ダメだ。ぜんぜんビクとも動こうとしない。

「おい、重いぞこれ」

「当タリ前デスヨ」

アナライザーがまだ頭部だけ、フワフワ漂いながら言った。横で腰部がドタバタその場で足踏みしてるが、その間の胸がない。

「ソレ、地球ナラ2とんデスヨ。イクラたいたんジャ七分ノ一デモ、300きろハアリマスカラネ」

「持てよ! お前の力なら持ち上がるだろう!」

「エート、チョット待ッテクダサイ。今、胸ガ、コッチニ向カッテイマスノデ」

「だからなんでそういうことになるんだよ!」

見えた。かすむ空気の中を、アナライザーの両手が付いた胸部がフワフワとやって来るところ。

戦闘機の群れは見えない。だが、このもやがなければ、もう目に見えていていいのかもしれない。まだエンジンの音らしきものも聞こえないが――。

しかしそう時間があるはずがない。とゆーときに、このロボットは! アナライザーはやっと来た胸を腰に載せ、そしてその上に頭を載せて、ようやく一人前になった。手足を動かし、オイッチニと体操をして、相撲取りがシコを踏むようなドスコイとした動作をする。

「早くこれを持て!」

「ハイハイ。ヨット、ドッコイショ」

貨物ポッドを持ち上げた。しかし、持ちはしたものの、ロクに歩けはしないらしい。「オットット」と言ってあっちにヨロヨロし、それからこっちにヨロヨロとする。

「おい。しっかり持て」

言って古代は貨物ポッドの端を支えた。しかし支えるだけと言っても大変なものだ。たちまち振られてオットットとなる。

「古代サーン。フタリジャ無理デスヨー」

「うるさい! 〈ヤマト〉にはこれが要るんだろうが!」

そうする間にも時間は過ぎる。アナライザーは力はあるがそううまくは歩けない。古代は歩きはなんとかなるがロボットみたいな力はない。ふたりでエッチラオッチラと貨物ポッドを〈ゼロ〉に運んだ。翼の下にくぐらせて、懸架装置の下に持ってくるまでがこれまた大変だ。

「もうちょいこっち……行き過ぎだ! 曲がってるぞ。その先を向こうへやれ! わわわ、押すな。傾けるな! そうじゃない。その逆だってのがわかんねえのか!」

やっとポッドを装着した。ふうヤレヤレと翼にもたれ込んでから、古代は急に、自分が大変な間違いをしたのに気づいた。

「アナライザー!」叫んだ。「お前、何やってんだ! 一本だけになったんだから真ん中に吊るすべきなんだよ! こんな端っこに吊ってどうする!」

「ダッテ、古代サンガココニ……」

「わああっ!」

と言った。ついうっかり、貨物ポッドを〈ゼロ〉の左の主翼の下に取り付けてしまったのだ。

それが元々の位置だった。本来ならばこの巨大ソーセージを二本運ぶ計画で、それなら左右の釣り合いが取れる。だがそれが一本だけになったのだ。タイタンではこの重さが300キロ。しかし1Gの加速で2トン、2Gで4トン、4Gならば8トンの加重が機体にかかることになるのだ。それが左に寄って付けられてしまっている。これで左右のバランスがまともに取れるわけがない!

「デモ古代サン」とアナライザー。「我々ダケデコレヲ胴体ノ下ニ吊ルスノハ無理デスヨ」

「うっ」

詰まった。古代はあらためて貨物ポッドに手を触れてみた。大きく太く長くて重い。主翼の下に取り付けるのもかなり大変な作業だった。これを〈ゼロ〉の胴体の真下に吊るそうとするならば、アナライザーとふたりで機の下に潜り、着陸脚の間にこいつをくぐらせて、取付金具の位置も見えない状態でなんとかしなきゃならないだろう――無理だ。到底できっこない。

どうする、と思った。重さだけの問題じゃない。タイタンのこの厚い大気だ。このまま飛べば、左側だけが大きな空気の抵抗を受ける。気流が乱れて翼の揚力にも悪い影響を及ぼすことに。

どうする、とまた思った。何やら小さく、唸り声のようなものが聞こえてきたように感じる。

ガミラスの戦闘機のエンジン音か。もうすぐそこに迫っている?

となれば、と思った。もう一本の貨物ポッド――中身はまだカラのものが採掘場に転がっている。古代はそれに眼を向けた。

「あれだ!」叫んだ。「あれを反対側に吊るそう! とにかく、空気抵抗だけでも釣り合わすんだ!」

言って走った。あのカラのポッドなら、軽いからすぐ取り付けられるはずだ。大気中を高速で飛ぶには、空気抵抗のバランスは重量以上に重要だった。右側にもポッドを吊るせば、後は舵の調整でなんとかいけるかもしれない。

「アナライザー! お前はそっちの羽根についてろ!」

ホップ・ステップ・ジャンプとばかりに地面を蹴って貨物ポッドが置かれた場所へ。軽い重力の中を跳び、古代はそこに取り付いた。カラのポッドを担(かつ)ぎ上げ、〈ゼロ〉の方に戻ろうとする。

そのときだった。古代は肩にいきなり強い衝撃を受けた。

それは鉄の棒ででも思い切り叩かれたような感覚だった。自分ではなく、担いでいた貨物ポッドに何かの強い力を急に喰らったのだ。それが肩に伝わった――古代はたまらずひっくり返った。

古代の手を離れたポッドも下に落ち、ギョワーンといった調子の音を響かせて転がった。金属製の筒だから、構造的にはお寺の鐘のようなものだ。タイタンの大気の中で音が響くのも当たり前――とは言え、穴でも開かなければ、こんなによく音を響かせはしないはずだが……。

穴が開いていた。ゴロゴロと転がるポッドにひとつ大きな穴があり、煙を吹いているのが見えた。

「古代サン!」

とアナライザーの声。

振り返って、古代は見た。湖の岸に立つ人影を。その後ろにはまだ青い炎を上げて燃えているガミラス水陸両用車があった。オレンジ色の世界の中で、その炎に照らされて、その人影は半ばシルエットとなって青く縁取(ふちど)られているように見えた。拳銃らしきものを手に持ち、古代の方に向けている。

そして撃った。