敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯
牽制砲撃
「艦長。各主砲塔、砲撃準備完了しました」と南部が言った。〈ヤマト〉第一艦橋だ。「この距離では命中は難しいですが――」
「構わん」と沖田が応える。「まずは牽制でよい。南部、砲撃を始めろ。標的は任せる」
「はい」
言って南部が、各砲台に指示を飛ばした。
「撃ち方始め!」
たちまち〈ヤマト〉の甲板に並ぶ砲台が、轟然と火を噴き始めた。遠巻きにする敵艦に向け、続々と太いビームが放たれる。その衝撃に船が震えた。
敵はビームを躱せる距離にいるのだから、狙いはあくまで牽制だ。が、そうは言っても各砲台はそれぞれが三連装――つまり、元の戦艦〈大和〉と同様に、ひとつの砲塔にビームの砲身が三本ずつ並ぶ構造となっている。それをわずかずつズラして撃てば、敵はビームを躱しきれずに三本のうち一本が直撃することも有り得る。
もちろん、そう理屈通りにうまくはいかない。しかし牽制だからと言って、敵にまったく当てない気など南部も各砲塔のクルー達も持ち合わせていなかった。それどころか、一隻二隻沈めてこそ真の牽制たりうるのだ。砲撃手らはそれぞれが狙う相手の動きを読み、未来位置を見定めて砲を撃ちまくる。そしてとうとう、一発が敵駆逐艦の一隻を仕留めた。
それはまったく、魚を銛(もり)でひと突きにするようなものだった。ビームを喰らった敵艦は、その一撃でまっぷたつにヘシ折れて爆発四散して消えた。
たかが小型の駆逐艦――とは言え、〈ヤマト〉の強力な主砲にして始めて為せる業(わざ)だった。地球の船がガミラス艦を沈めたのは、これが始めてというわけではない――むろん、この前のヒトデ空母は別に置くとして――しかし、通常の砲撃で、これほど見事に一撃で葬り去ったのは初のことに違いない。
「おっしゃあ!」
艦橋で南部が快哉(かいさい)を上げた。他の者らも「おお」とどよめく。〈ヤマト〉艦内のそこかしこでも、轟沈(ごうちん)の報にクルーらが沸いているに違いなかった。
さらに続けてもう一隻の敵を沈めた。逆にガミラスの船どもはこちらに撃ってもこられない。駆逐艦程度の砲の射程では撃っても届きもしないのだ。ただ爆雷を撒きながら逃げ惑うばかり。
「よし! だが調子に乗るな。デカいのが来たらこうはいかんぞ」
沖田が言った。そのとき森の代理が告げる。
「揚陸艇が本艦に一万キロまで近づきました」
スクリーンのレーダー像の片隅に山本が操る機体の指標が出ていた。〈ヤマト〉へのコースに乗って機の進路を合わせつつある。
「古代の〈ゼロ〉は」
「まだです」
「そうか――太田、もう少しタイタンに近づけるか」
「これ以上はワープできなくなりますが」
「それでも、もう少しだけ近づく。島、ピッチマイナス10だ」
「はい。よーそろー」
〈ヤマト〉が揚陸艇を迎えるべく舳先を向けた。そのとき、
「また敵艦が現れました! 大型です!」
森の代理が叫んだ。スクリーンに映像が出る。
〈ヤマト〉にも並ぶであろう大型戦艦が、宇宙空間に出現していた。距離はまだ遠いようだが――。
「来たか」
と沖田が言った。そのとき相原が叫んだ。
「〈ゼロ〉からのメーデー受信しました! 戦闘機に追われているとのこと!」
作品名:敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯 作家名:島田信之