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敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯

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勝敗を決めるもの



メインとサブの三基のエンジンが唸りを上げ、〈ヤマト〉の巨体をグイグイと加速させ始めた。前方にいま敵はない。まっすぐには進めぬ〈ゼロ〉を救けるべく動いたことが幸いし、船の進路を敵に予測できないものとしていたのだ。タイタンを下に見ながら船の上方を見上げれば、十数隻の駆逐艦が隊列を組んで広がっている。だがこいつらはどれだけいようと恐れるにはあたらない。近寄れば主砲で串刺しにされるだけと知ってそもそも〈ヤマト〉の前にまわり込もうとはして来ない。

大型の戦艦や重巡は、皆〈ヤマト〉の後方にいた。舳先を巡らし追ってこようとしているが、ひとたび全力を出し始めた〈ヤマト〉について来られるような大型艦は、少なくとも今の太陽系にいるガミラスの中に存在しない。

〈ヤマト〉の強い加速力の秘密は補助エンジンにある。〈補助エンジン〉は名前の通りメインエンジンを補助するものだが、戦闘時にこそ、その力を最大限に発揮するのだ。

小型ながらに高出力。ガミラスにない地球ならではの技術によって、全開時には二基合わせてメインエンジン一基のそれを超えるほどの推力を生み出し、三基合わせた圧倒的なパワーを以て重い船を進ませる。

離脱に備えて力を温存させていたそれらのノズルがいま咆哮を上げながら炎を後ろに送っている。今の〈ヤマト〉は太陽系で最も速い軍艦であり、敵ガミラスにその力を見せつけながらタイタンを離れつつあった。宇宙空間の船対船の戦闘で勝敗を決めるものは何よりも砲の火力と船の速度だ。高速を以て敵の船に襲いかかり、素早く離脱し次の敵を追える〈ヤマト〉はまぎれもなく無敵と言える船だった。とは言えそれも、加速を生み出すサブエンジンが焼き付くまでの話なのだが――。

〈ヤマト〉の最大戦速は決して長くは維持できない。何十隻も次から次に追いかけるには至らないのだ。今この状況においてもやはり、多勢に無勢と呼ぶしかなく、せっかくの推力も逃げるだけの役にしか立たない。

しかし、それで構わなかった。タイタンの重力圏を脱出してワープ可能な宙域に〈ヤマト〉を到達させるのに、補助エンジンは充分な力を有していた。沖田の采配でこの窮地を脱した〈ヤマト〉は、追いすがるガミラス艦隊を引き離し、タイタンをみるみる小さくオレンジ色の小さな豆に見るところまで遠ざけると、さらに遠くに土星の輪を見る空間に歪みを作ってその中に消えた。

ワープによって別の空間に去ったのである。こうなるともうガミラスに後を追うことはできない。追ってワープしたならば、いずれは火力を取り戻す〈ヤマト〉の主砲の餌食になるのはわかりきったことだからだ。宇宙空間の戦闘を決めるものは砲の火力と船の速度の他に、もうひとつ――それは何より、結局のところ、『逃げるが勝ち』なのである。