敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯
新見が〈ヤマト〉の戦術士ならこのわたしは船務士だ。同じく情報オペレーターで、こちらは船のマネージメント業務をすべき人間。古代進という乗組員をある作戦に使うなら、その能力を知っておかねばならない立場。そうではないか? なのにわたしは、採った鉱石を運ばすことを、たかが運搬とナメてかかった。
迂闊に過ぎる。その甘さがふたりのクルーを死なせたと言われても仕方がないのではないか?
すべてを失敗に終わらせるところだったと言われても仕方がないのではないか?
『佐渡先生。コレハ一体何ガアッタノデスカ?』
アナライザーの声がした。やはり壁の向こうからだ。
『おう、なんじゃ? こいつなら大丈夫じゃ。これこの通り酒も飲めるぞ』
『飲マセテドウスルノデスカ。古代一尉ガ起キタラ艦長室ニ出頭サセヨトノ命令ダッタハズデス』
『そうじゃったかな。えーじゃないかそんなことは。それよりお前も一杯やらんか』
『ハ? ワタシガソンナモノヲドコニ入レルト言ウノデスカ』
『そうだッ! アナライダー、お前も飲め!』
『ワワワッ、ソンナ、古代サンマデ! チョット、何ヲスルノデスカ!』
『ここです、ここ! このキャップを開けてやれば――』
『そうか。しっかり押さえつけとけ』
『大丈夫です。こいつはね、こうしちゃえば動けませんから』
『ワーッ! ワーッ! ソンナモノヲ混ゼタラ! ヤメテ! ヤメテクダサーイ!』
『入れたぞ。これでどうなるんじゃ』
『さあ、おれも知りません』
『ヒック』
『お? なんじゃ?』
『ヒック』
『しゃっくりしてるみたいですね』
『ヒック、ヒック……ウ〜イ』
『大丈夫かな』
『ツ……ツ……ツ……ツ……』
『壊れちゃいましたかね』
『ツ……ツキガ……』
『ん?』
『ツ……月ガ〜出タ出タ〜、月ガ〜ア出タ〜ア』
『おお! こりゃおもしろい!』
とうとうみんな、聞いてるだけでいられなくなった。立ち上がって男性区画の方へ行く。
そこにはもう、すでに人垣が出来ていた。当惑したクルー達が見守る中で、ヨタヨタと踊る赤いロボットを古代とハゲ頭の医師が笑って囃し立てていた。
作品名:敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯 作家名:島田信之