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敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯

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来襲



「コー・フク! コー・フク! コー・フク! コー・フク!」

「コー・フク! コー・フク! コー・フク! コー・フク!」

降伏降伏と叫ぶ暴徒がまわりを囲む地球防衛軍司令部。鎮圧は続いているが人の津波が治まる気配はなさそうだった。《NO MORE WAR》の札を掲げて後から後から湧いて押し寄せてくる。

「〈ヤマト〉なる船の発進をやめよーっ! いつまで無駄な抵抗を続けるーっ!」

「絶滅が確定してからでは遅ーいっ! 女が子を産めるうちに降伏をーっ!」

てんでんに声を涸らしてわめきたてる。この者達は狂人に他ならないが、子を持つ親が何割か含まれているに違いなかった。このままではあと一年で自分の子が白血病に侵される。自分より自分の子が先に死ぬ。それが確実であるという事実が彼らを狂わせるのだ。ゆえに、この者達に理を説くのは無駄だった。それどころか、降伏すればガミラスは青い地球を返してくれる。なぜなら〈彼ら〉は本当はいい宇宙人なのだから、悪いようにするはずがない、などいう考えさえ信じ込むようになっている。

しかし狂える者らの叫びは、中にいる者達にはまったく届いていなかった。より深い地下に置かれたぶ厚い扉の奥の防衛指揮所では、部屋の中央のプロジェクターが映し出す地球と月の立体映像に人の視線が集まっていた。十人からのオペレーターが忙しく手を動かしている。

ひとりが言った。「望遠で捉えました。映像出します」

ウインドウが開いて平面映像を出した。十字型のガミラス艦が宇宙にある。脚の足りないヒトデといった外観だ。

「四百メートル級の空母です」とオペレーター。

「信じ難いな。たった一隻でやって来たのか」

「こんなデカブツが、それも単艦……」

「無人機以外がここまで地球に近づいた例はありません」

「ガミラスと言えど短時間に易々と船を動かせはしないということではないでしょうか。〈ヤマト〉破壊にすぐ差し向けられるのがこのヒトデだけだったのかも……」

「その後は地球の船に捕まるか、沈められるのも覚悟と言うのか?」

「これだけデカい空母です。捕獲は難しいとは思いますが」

「とにかく、そうまでして〈ヤマト〉を沈めようとする……あの仮説はやはり正しかったのだろうか……」

並ぶ者達がガヤガヤと言う。うちひとりがオペレーターに尋ねた。「迎撃はできんのか?」

「月基地からスクランブルが出ています。しかし敵(かな)うものか……」

「拿捕など考えなくていい。今は〈ヤマト〉を無事に出すのが先決だ。〈ヤマト〉はまだ動けないのか?」

「急がせてはいるようですが……」