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敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯

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始動準備



「真田副長兼技師長。アナタノ仕事ヲ増ヤス代ワリニワタシヲ助手ニ付ケルトノ艦長ノオ言葉デス。ドウゾヨロシクオ願イシマス」

機関室にいる真田の元にアナライザーがやって来て言った。真田はこのポンコツを上から下まで眺めてから、

「お前、あの古代進についてきたやつか?」

「ソウデス」

「ふうん……まあよろしく頼む」

「ドントオ任セアレ」

「さて」

と人間のクルー達に向き直る。今は誰もが通常の船内服に作業用のヘルメットという姿だ。真田も頭にヘルメットを被っている。

「どうやら回転も上がってきたが、最終的な始動は火薬で行う。手順はみんな理解していると思うが」

徳川が言う。「ドカンとやってブルンと始動とは、まるで昔のプロペラ飛行機のエンジンだな」

「原始的ですが他に方法がなかったもので……使う火薬の量はケタ違いですがね。危険な作業でもありますので落ち着いて、慌てず正確に行ってください。特にこの床がこの床ですから、薬筒がどう転がるかわかりません。一発で掛かってくれればいいのですが……」

一同が前にしているのは戦車か何かの大砲の機関部のようなものだった。〈ような〉、ではなく、ほぼ大砲そのものなのだ。巨大な懐中電灯に電池を入れるようにして、一升瓶ほどもある真鍮製の火薬がギッシリ詰まった筒――見た目はまさしくバカでかい拳銃用の薬莢だ――を挿し込んで、尾栓を閉じておいてから横に付いたコードを引く。

するとドカーン! 予備回転を充分に与えた波動エンジンに対してそれを行えば、これを弾みに巨大な船を浮かせるだけのパワーを出して動き始めるというものである。何かしくじればケガ人や死者すら出しかねないのはもちろん、この大砲もどきを壊してエンジン始動が叶わなくなるおそれもあるかなりリスキーなシロモノだった。だがこの他にエンジンを始動させる適当な方法がないのであれば、それが適当な方法なのだ。

「しかし何度も試行せねばならないかもしれん。繰り返すほど事故が起こる率も高まるので、作業はまわりに気をつけながら行ってくれ」

「はい!」

と全員が言った。エンジン始動の準備にかかる。藪助治という機関員が、架台に並んだ真鍮の筒のひとつを両手に持った。重さ5キロはあるだろうそのシロモノを抱えて運ぶ。ただ足下に落としたくらいで暴発するようなものではないが、だからと言って手にして気持ちのいいものでなどあるわけなかった。

一発目をエンジン始動接続器に装填。これで一応始動準備が整った。真田は計器に眼を向ける。回転数の目盛りはまだ低いところを指していて、ジワジワとしか柱を上げようとしていない。