敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯
仮説
『「ガミラスは地球人が波動技術をものにするのを恐れていて、それで攻めてきたのではないか」という話はかなり以前から一部に言われていたことではあるんですね』
とテレビが音声を発しているが、古代は毛布を頭から被りベッドに丸くなっていた。これ以上こんなの見てたら気が狂う。特になんだかややこしそうな話はイヤだ、と思えばこうするしかない。テレビを消してやりたくても、電源スイッチ自体がないのだ。きっとこのためリモコンを持っていかれているのだろう。
『そう――波動理論については、かなり前から発見され研究されていたわけです。宇宙船の床に使われる人工重力にしても、タイムラグなしの長距離通信を可能にする技術にしてもその産物なわけですからね。この技術が進んだら光より速く進む船が出来、外宇宙に乗り出していけると期待されてきました。同時に軍事的応用が当然のように考えられ、星をも吹き飛ばせる爆弾か大砲のようなものが造れるだろうと言われました』
聞きたくない聞きたくない。もう勘弁してください。
『むろん軍事利用と言っても、この場合、もしも巨大な隕石が地球に落ちてこようとしたときそれを防ぐ目的で研究されていたわけです――そんな兵器は造ってもさすがに他の使い道はないと考えられましたので。十年ほど前に予備的な実験が行われ、一応の成果を上げました。しかし隕石破壊砲や超光速宇宙船が本当に出来上がるのは何十年も先であろうとも言われました』
おれはこの一日で十年老けちまったよう。あしたまでに老衰で死ぬよう。
『そこにガミラスの出現です。彼らの船が波動エンジンを備えているのは明白でした。そしていきなり遊星をぶつけてくるような手に出ましたが、彼ら自身は決して近くへ寄ってこようとはしない……これはまるで蛇が怖くて遠くから石を投げつける子供です。そこでひとつの仮説が立つことになりました。彼らは彼らの船のエンジンを地球人に調べさすまいとして、そうしているのではないか。ガミラス艦のエンジンを地球が手にして調べたならば、波動技術の開発が一気に進むことになる。もし地球が波動エンジンを持ったなら、自分達より強い船を造ると考えているのではないか……』
わかったからもうCM行ってくれよう。
『ガミラスに波動技術があるのなら、〈波動砲〉とでもいうようなもので地球を一瞬に吹き飛ばすこともできるはずです。エネルギーの源である〈コア〉とでも呼ぶべきものを爆弾にして、地球に投げつけてもいい。それで粉微塵です。そうしないのは、それができないからではないか。地球人に造れるかもしれないものが、ガミラスには何かの理由でまったく造れないのじゃないか……』
別にそんなにグダグダとしゃべらなくてもいいじゃないかあ。
『かなり首をひねるような仮定ですが、そうとでも考えなければ辻褄が合わない。つまり彼らガミラスは地球人が外宇宙へ出るのを恐れ、そうなる前に絶滅させにやって来たことになるのです』
作品名:敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯 作家名:島田信之