敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯
戦闘開始
「そうだ」と沖田は言った。「ゆえに降伏は無意味。やつらは地球人類を最後のひとりまで殺す気でいる」
相原が叫ぶ。「司令部より通信です。『敵空母は月軌道に到達。スクランブルの戦闘機隊と交戦に入った』とのこと!」
「メインに映します」森が正面の大スクリーンに状況を出す。「敵も艦載機を出して迎え撃っている模様!」
宇宙空間で無数の戦闘機同士の闘いが始まったらしかった。対艦ミサイルを抱いて空母に攻撃をかけようとする地球側と、それを阻もうとするガミラス。スクリーンには色分けされた指標が乱れ動いている。
沖田が言う。「四百メートル級の空母ともなれば、対艦ミサイルの一発や二発当たったところでビクともすまい。こちら側の船は出んのか」
また森が、「向かわせてはいるようですが、砲の射程に入るまではまだ距離が……」
「波動エンジンを持たない船じゃ、ガミラスには追いつけないんだ」太田が自分の3Dパネルを見ながら言う。マトリックス画面に地球の船の動きが表示されている。「そもそもスピードが違う……」
「船の強さは、結局は積むエンジンで決まる」島はただ拳を握りしめている。今、操舵手の彼にできることは何もない。「エンジンに力があれば、それだけ船の足を速くすることができる。装甲を厚くして、強い武器を積むこともできる……」
「大艦巨砲主義の復活」南部が対空火器のチェックをしながら言う。「敵が三十キロの距離からこちらを狙える船を持つなら、こっちは四十キロまで届くデカい大砲を船に載せよう――戦艦〈大和〉が出来たときには時代遅れになってた思想が、宇宙時代の今にまた有効になった……」
「空母一隻で仕掛けてきたのは、あるいはそれが理由かも」新見が自分の前の画面に敵空母のデータを出して見ながら、「艦載機を繰り出せば、母艦は〈ヤマト〉の射程に入ることなく攻撃をかけることができる。まともにやったら地球人に敵わぬ可能性を考慮して、あえて小型の艦艇を何隻も出すのは避けた……」
相原が、「けどそんなの、こっちも戦闘機を出すのはわかりそうなもんじゃないか?」
「そうですね。ならばどうして……」
と新見が言いかけたとき、
「待って!」森が叫んだ。「空母がミサイルを発射しました!」
「ミサイル?」
全員がメインスクリーンを見た。状況を示すマップに新たな無数の指標。ガミラス艦から放たれたものが地球に向かっているとわかる。
「数は120! 巡航ミサイルと思われます!」
沖田が言う。「目標はこの〈ヤマト〉か」
「と思います。でもこの距離なら、迎撃が……」新見が言いかけ、それから急に気づいたように、「ああ! ダメよ!」
「どうした?」
「迎撃できない! 沖縄基地がまだあれば、このミサイルは地球に届く前に全部墜としてもらえたはずでした。でも――」
そこで言葉を失くした。だが説明の必要などない。誰もがもう理解していた。巡航ミサイルの攻撃から〈ヤマト〉を護れたはずの基地はもう存在しない。
太田が言った。「やつら、それを計算の上で――」
「司令部から通信です」相原が言う。「『〈ヤマト〉はまだか』と言っていますが――」
沖田は言った。「『待て』と伝えろ」
作品名:敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯 作家名:島田信之