敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯
「機雷、古代サン、機雷!」『嫌い』と言ってるように聞こえる。「当タッタラ木ッ端微塵デス!」
「わかってるって言ってんだろう!」
あるわあるわの機雷の大群。まさに魚にでもなって、大発生したクラゲの群れに飛び込むようなものだった。それも、猛スピードで。ウニのような丸いトゲの固まりで、当たっただけで機体がブチ壊れそうだが、むろん当たれば弾け飛ぶのだ。しかし入ってしまったら、もうその中を進むしかない。
「古代サン、速度緩メテ!」
「っせーんだよ!」
右に左に機体を振って古代は機雷をすり抜ける。アナライザーが頭も手足も胴体からスッポ抜かせてバラバラになって――このロボットはときどきこうなる――悲鳴を上げて操縦席を飛び回る。ガミラス機はビームを放って追いかけてきたが、とうとう機雷のひとつに当たって爆発した。
振り向けば宇宙にオレンジ色の火球が広がっている。
「やったぞ!」
「モ……モウめろめろデス……ワタシノ腰、腰ハドコ……」
「待ってろ、いま機雷原を――」
出ようとしたときだった。不意にビームが飛んできて、目の前の機雷を貫いた。爆発。機雷が弾け飛ぶ。
「え?」
驚くヒマもなかった。〈がんもどき〉のまわりの機雷が、次々に撃ち抜かれて吹っ飛び出した。周囲が炎に包まれる。
「これは――」
ビームが来た方を見た。二機のガミラス戦闘機。三機いたうちの残りふたつが、機雷原の外からこちらを狙っていたのだ。
「わわわ」
慌てて機をめぐらせる。しかし向きを変えた先の機雷がまた消し飛ばされた。
「こいつら――」
古代は呻いて、二機のガミラス機がいる方を見た。8の字を描いて互いにユッタリとまわりつつ、突っつくように〈がんもどき〉に撃ってくる。自分達は決して機雷原の中には潜り込まないようす。
「おれをこっから出さないつもりか?」
慄然とした。周囲は機雷。動いていればいずれどれかに接触し、動かなければビームに殺られるということになる。機雷原をもし抜け出ても、そのときは二機で襲われて八つ裂きか。
となれば、道はひとつしかない。古代は操縦桿を押した。〈がんもどき〉の機首が下を――宇宙に上も下もないが、古代から見た上下ならば存在する――のめり込んで向いた。
「古代サン! 機雷原ノ奥ニ入ッテイク気デスカ!」
「しょうがないだろ! 向こう側から抜け出すしかないだろうが!」
「デスガ――」
とアナライザー。古代にもわかっていた。ガミラスの一機がクルリと向きを変え、その場を離れ去るのがレーダーに映っている。あれは去っていくんじゃない。こちらの考えを読み取って、先回りして待ち受けようという気なのだ。
どうする、と思った。望みと言えば、やつらもそうそう時間をかけてはられないだろうということくらいか。戦闘機の宿命として、やつらの航続距離は短い。それは地球の戦闘機とたいして変わらないはずだった。三十分も全開飛行を続けたら、もう帰れはしないはず。燃料切らしてこんなところを漂っていたら、地球の船に見つけられて拿捕される――それはやつらもわかるはずだ。あの船追ってここまでやって来たのなら、エネルギーは底を尽いてる――。
そこで思った。あの船は一体どうなったんだ? あれを追ってた二機が二機ともこっちにまわってきたってことは――。
殺られたのか。そもそもどんな船だというんだ……しかし考えるゆとりはなかった。機雷をかいくぐって進む。もう少しで抜けられる――。
最後の機雷をすり抜けて、〈がんもどき〉は星空に出た。だがガミラス機が来るのが見える。反対からももう一機。
挟み撃ちだ。
ちくしょう、と思った。いっそもう一度、機雷の中に潜り込むか。こいつらは中へ追ってこないだろう。いや、どうだろうか。こいつら、やはり、かなりあせってるんじゃないのか? あの船を追ってここへ来た。それなりに重要な指令を受けてきたのだろう。そこにおれが出くわした。こいつらには不測の事態。この蚊トンボを早く片付けないことには任務に支障をきたしてしまう。どころか、一機殺られてしまった。下手すれば地球の船に捕まって――なんて考えてるんじゃないのか? よりにもよってあんなオンボロ、すぐに消し飛ばしてやる――と、そんな考えでいるかもしれん。今度の二機はさっきのやつと違って無駄ダマを撃ってはこない。まっすぐこちらに進んでくる。
それならば――と思った。古代は機をターンさせた。
「古代サン! マタ機雷ヘ突ッ込ムノデスカ!」
「いや」と言った。「見てろ」
操縦桿から手を離して指をほぐした。チャンスは一瞬だろう、と思う。やつらに射撃の腕があるなら、撃つのは引き付けてからだろう。最期におれの顔を見やがれ。
今、と思った瞬間に、古代は機をひるがえさせた。ガミラス機が二機とも撃った。火線が交錯。そのまま、勢いあまったように、二機のステルスは正面からぶつかり合って四散した。
「ヤッタ! 古代サン、ヤリマシタ!」
アナライザーがまだバラバラの状態で手足を振って、あちこちのランプをピカピカさせた。
「うわー」と古代。我ながら、「嘘みたい……」
もう敵はいなかった。宇宙は凪いだ星の海。それ以外は何もない。
いや、「待て。さっきの船はどうした」
「ハ? 船ト言イマスト?」
「ほら、追われていたやつだよ!」
「オオ、ソウダ。忘レテマシタ」ロボットが忘れるな。「エエト、タブン、アノ辺カナ。望遠デ見テミマショウ」
カメラが向けられる。モニター画面に奇妙な宇宙艇が映った。
エンジンが止まり、煙を吹いてる。やはりガミラスの戦闘機に殺られてしまったのだろう。
「あーりゃ、まあ」古代は言った。「アナライザー、なんだかわかるか」
「ワタシガ持ツでーたノ中ニハアリマセンネ。がみらすノドノ船ニモ似テイマセン」
「て言うより、なんか軍用じゃない気がするけど」
戦闘用には見えなかった。飛行機で言えば何かビジネスジェットというか、帆を付けたらヨットというか。どうもそんな印象を受けた。〈がんもどき〉のように荷物を運ぶものとも違う。何人かで宇宙を優雅に旅するための船、という――。
「シカシ、次元潜航能力ヲ持ッテイルヨウデスネ。ソウ思ワレル特徴ガアリマス」
「次元潜航? 潜宙艇なの?」
ふーん、と思った。そう言えば、ちょっと水鳥みたいにも見えるか。カワセミなどの、水に潜って魚を捕らえる鳥のような感じに見える。ガミラスと言えばサメかウツボか深海魚か、潜宙艦でなくたって、オコゼかアンコウ、ばかでっかいヒトデかという形態ばかりのはずなのに。
とにかくこの船、やはり軍用じゃなさそうだが、「それでレーダーに映らなかったんだな」
「がみらすノ網ヲクグッテ外カラ太陽系ニ入ッテ来タ。シカシ結局見ツカッタ。トイウトコロカモシレマセン」
「ふうん」
と言ったとき、ピーピーピーと警報が鳴った。
「わっ、今度はなんだ」
またガミラスか、と思ったが、どうやら違う。
「火星カラ通信デス。れーざー送信デ、文章ノミ」
「はん? レーザー?」
作品名:敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯 作家名:島田信之