敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯
レーザー通信は名前の通り、レーザー光線で信号を送る通信手段だ。ピンポイントで相手めがけて送れるので、敵などに傍受されにくいとされる。また、たとえされるにしても、敵が遠くにいるのなら傍受に時間がかかるとされる。古代が今いるのは火星から光の速さで二分ほどのところ。レーザーは光速で進むので、敵が二倍の距離にいるなら届くのに倍の四分かかるわけだ。そしてそんなに届かないよう光の強さを調節すれば、傍受のリスクをかなり減らせる――ということになっている。
超光速での交信はできない、かなりかったるい方法だ。だからおおむね内容も、メールのような文章のやり取りになるのが普通ではある。
「なんて言ってんだ?」
アナライザーがトレイを開けた。受信文が画面に出る。
《貴機のメーデー受信した。無事か? 状況を知らせよ》
「なんだこの野郎」古代は言った。「ガミラスに追われながらメールなんて打ってられると思ってんのか?」
「ソウ返信シマスカ?」
「いや」と言った。「どう応えたらいい?」
「ソウデスネ」
アナライザーが文を考え画面に出した。古代は頷いて言った。
「それでいいんじゃないの」
返信を送る。やはりレーザー。
「これ、返事が来るまでに、五分くらいかかるんだろうな」
「ドウシマショウ」
望遠カメラの画像を見た。古代は言った。
「この船んとこへ行ってみるか」
作品名:敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯 作家名:島田信之