敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯
次元潜航艇
ちょうどその破壊された次元潜航艇(とおぼしきもの)の残骸が浮かぶ場所に着いたところでまた着信があった。
《その艇の乗組員の生死を調べよ》
「おい」と言った。「冗談だろ?」
「冗談デハナイト思イマス」
「ガ、ガ、ガ、ガミラス人って、どんな格好してんだよ」
「ワタシノでーたニハアリマセン」
当たり前だ。地球はこれまで、敵を知るため、ガミラスの兵をなんとか捕虜にしようと試みてきた。しかしひとりも生け捕りはおろか、死体のひとつも手に入れられずいるという。なんと言っても最大の理由は、準惑星の陰に隠れて太陽系内部にはなかなか来ないその戦術だ。さっきのステルス機にしても、機が殺られればパイロットは瞬時に焼かれる仕組みになっているらしい。ガミラスには、どうやら兵士の投降や脱出を許さぬ非情さがあるらしいのだ。コクピットの搭乗員はチラリと見えた。目が合った気もしたけれど、それは〈気がした〉というだけで、顔は黒いヘルメットで覆われていた。大きさは地球人と同じらしいと言われるが、どんな姿格好なのか誰も知る者はいないのである。
「で、でっかいザリガニだったらどうするんだ。でなきゃ、タコとか。イソギンチャクとか。おれ、ナマコだけはやだよう」
古代進は神奈川県の三浦半島で生まれ育った。海の近くで、ナマコがいた。で、うっかり、はだしでそれを踏んでしまったことがあるのだ。おぞましい。あれだけは、死ぬまで忘れられないだろう。
「ソンナコト言ッタッテ」
「アナライザー、お前、分析ロボットだろ。なか調べに行って来い」
「命令ナラ行キマスガ」
「そうだ、行け。ナマコだったら触るなよ。エンガチョだからな」
「ワタシモアマリなまこミタイナモノハ好キジャアリマセンガ」
「ロボットが何を言ってやがる。あれはなあ、切ったのを食べるぶんにはうまいんだ」
なんかメーターをクルクルさせた。
「なんだよ」
「イエ、古代サン……何カ信号ヲ出スモノガアリマス」
「ん?」
「ホラアレ」
指差すものを見た。宇宙に何か点滅する光がある。
アナライザーがカメラを向けた。望遠。画面にそれが映る。
ラグビーボールのような楕円の球体だった。中に人影のようなもの。
「脱出かぷせるジャナイデショウカ」
「脱出カプセル? ガミラスが脱出なんて聞いたことないぞ」
「イエ、ソモソモ、がみらすトハ限リマセンヨ。別ノ異星人カモシレマセン」
「うーん」と言った。ちょっと考えてから、「やっぱりナマコじゃないのか?」
「トニカク、アレヲ調ベテミマショウ。生キテイルカモシレマセン」
〈がんもどき〉で近づいていった。どうやらそれは、やはり脱出カプセルらしい。大きな透明の窓があり、人間ほどの大きさの、人間のようなものがいるのが見える。
しかし、
「これ――」古代は言った。「人間じゃないのか?」
カプセルの中にいたものは、まるっきり地球人の若い女としか見えなかった。
作品名:敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯 作家名:島田信之