敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯
「そうです。そもそもこの地球は、あなたがた人類だけのものではないでしょう。一部の者が逃げるために、せっかく保護して〈ノアの方舟〉という施設に置いた動物達を自(みずか)らの手で殺すのですか。そんなことに手は貸せません。真田さん、わたしがこの星にいる間に、必ず一度〈ノアの方舟〉を見せてください」
〈ノアの方舟〉とはもちろん、多種多様の野生動物を地下に保護している施設だ。世界じゅうに何百とあるそのひとつに彼女を連れて行く役に、彼女自身が真田を指名した。真田は技師長として〈ヤマト〉に乗ることがすでに決まっていた関係から、計画の初期段階からほぼすべてに関わらなければならなかった。当然、炉の完成を見なければならない彼女と毎日顔を突き合わせていた。
最初は異星人と言われてもまるで信じられなかったものだ。彼女はまったく地球人としか見えなかった。日本人にも見えなかったし、どの人種に似てるかとなるとなんとも言いようがないのだが――。
真田は彼女とふたりだけの、〈ノアの方舟〉へ向かう途中のクルマで聞いた。
「ひとつ気がかりなことがあります。ガミラスがあなたがたの〈コア〉と同じものを持つのなら、爆弾にして地球に投げはしないかと……今までやらなかったからと言って、今後も必ずやらないとは言えないでしょう。もしも〈彼ら〉が気を変えたら――」
「その心配はありません」
「いや、しかし――」
「大丈夫です。それは決して有り得ません。不安に思うのはわかりますが、これもイスカンダルに着けば理由がわかるでしょう。やはり今、わたしの口からそれを言うわけにいきませんが」
そう言われてはそれ以上聞けない。横顔を気にしながら運転を続けた。〈ノアの方舟〉で真田は彼女と半日を過ごした。鹿に狐に熊、馬、猿……兎やリスといったものから、鶴やフクロウといった鳥。さらには蛇やトカゲといった類まで、彼女はすべてを目に焼き付けようとするかのように施設を歩いた。
そうして言った。「罪のない動物までも滅ぼそうとするガミラスに対して何もできないわたし達を許してください。地球の時間で半年後、わたしは必ず〈コア〉を持って戻ってきます」
真田は言った。「約束します。それまでに必ず船を完成させます。決してあれを逃亡船になどさせません」
作品名:敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯 作家名:島田信之