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敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯

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無用の長物



『〈ヤマト〉は逃げたのです! 決して帰ってなど来ません!』

と、ノイズ混じりのテレビ画面に映る者が叫んでいる。地球の地下都市のテレビ放送は、今のところ〈ヤマト〉艦内でも見ることができる。日本に限らず世界のどこのものでもだ。ここ数日、報道は〈ヤマト〉のことで持ちきりではある。あるニュースが街頭演説を映していた。

『〈イスカンダル〉? 〈コスモクリーナー〉? バカバカしい。全部デタラメに決まっています! そんな話を信じることができますか? よしんば事実だとしても、一隻だけで行くなど有り得ないでしょう! 必ず船団を組むはず、そうではありませんか? 〈ヤマト〉は逃亡船なのです! エリートだけが逃げたのです!』

別のニュース。

『一体なんですかあの船は。〈波動砲〉? あんなもの、トリック映像に決まっています! ガミラスが地球近くにまで来たことなど一度もないのに、なぜ都合よく現れたのでしょう。ホラ、おわかりですね。あんなの全部ウソッパチなんだ。〈ヤマト〉など存在しないに決まっている!』

なんと、いないことにされてしまった。また別のニュース。

『あまりに荒唐無稽な話でついていけませんよね。リアリティのカケラもない。ワタシはこの〈ヤマト〉の件には裏があると睨んでいます。陰に潜んでこの世界を操っている闇の勢力があるんです。その者達は侵略者ガミラスと密約を交わしていて、地球人類を奴隷として売る代わりに自分達だけ宇宙の支配者の仲間入りをしようとしている。ノストラダムスの予言にある〈1999〉やマヤの予言の〈2012〉が実は今年を指していたのが最近の研究でわかったのですが、この陰謀を企んでいるのは……』

陰謀論まで飛び出してきました。こういうことを言う輩はいつの世にもいるものです。では別のニュース。

『これは元軍事アナリストであるワタシの経験による推測ですが、〈ヤマト〉の波動砲には冥王星を丸ごと破壊するだけの力があるわけです。問題は迎え撃ってくる百の艦隊にどう立ち向かうかですが、当然これにも地球防衛軍は充分な策を講じているというのが元軍事アナリストであるワタシの経験から言えます。で元軍事アナリストとしてワタシがこれを経験からどう見るかと申しますと、元軍事アナリストとしては、〈ヤマト〉の波動砲には冥王星を破壊するだけの力があって、ですから波動砲で冥王星を破壊できるのではないかと元軍事アナリストとしてワタシは経験から考えるわけです。問題は百の艦隊とどう戦うかですが、元軍事アナリストであるワタシの見解としては、百の艦隊とどう戦うかということになるのです。ワタシの元軍事アナリストの経験から言ってもこれはかなり難しいと言えるのではないかと元軍事アナリストとして言えるのではないかと経験から言えるわけでして、ワタシの元軍事アナリストの経験から言うと……』

〈ヤマト〉大食堂。クルーが数人集まって、あきれ顔でテレビを見ている。

「ロクなニュースがないねえ」

「まあこんなもんだろうとは思うけど」

「でもやっぱりあれかなあ。地球を出てすぐ波動砲を撃ったじゃん。あれでおかしな人間はおかしなふうに反応してるんだ。ほんとに普通の一般市民はどう見てんだろ」

「期待半分、アテにしてないのが半分ていうところじゃないの。まだいいよ。波動砲で空母一撃にするまでは、まるきり無反応だったらしいから」

「その波動砲の話にしても、あまり信じられてはいない」

「当然でしょうね」

「元々は、木星辺りで試射の予定だったんだよね。その場合、市民はまるきり何も知ることがないか、ニュースで見ても関心持たない」

「そりゃそうよ。地上へ出ていけるなら、安物の望遠鏡でもはっきり見えるくらいの痕が何日も木星に残るはずなんだけど、出てけないんじゃあ。政府が言うのが本当かどうか確かめようがないってことでしょ」

「だからそうはさせないために、艦長はあそこで砲を撃った? それで信頼は得られなくても、少なくとも関心は持たれた?」

「一般市民に対してはそうね」

「けれども火星の徹底抗戦派までがおかげでまた狂っちまったぜ。それでテストが大遅れだ。小惑星の陰から陰へ。木星ではなく土星へ向かいましょうとくる。おまけにタイタンでコスモナイトの採掘か……」

「だいぶ日程に響くよな。本来ならば木星ですべてのテストを終えて、サッサとワープで太陽系を出て行くべきなんだから」

「でもどうなの? 〈スタンレー〉を叩かずに行けば、やっぱり〈ヤマト〉は逃げたと言われるんじゃないの?」

「それはある。民衆が関心持ってないならともかく、今はそうじゃないんだからな。『波動砲は冥王星を消し飛ばすため〈ヤマト〉に積まれた。ならやることやっていけ。そうしないのはおかしい』ってなことになるぜ、きっと」

「でも現実、無理だろう。〈スタンレー〉に近づくこともできないんじゃ」

「幕僚達は、この〈ヤマト〉を波動砲を撃つための船として造ったんだよね。でもその実、何も考えていなかった。冥王星にどう近づいて、撃った後どう逃げるかなんてことは……」

「『造ってしまえばきっとなんとかなるだろう』と。まるで昔の日本海軍そのまんま。戦艦〈大和〉を46センチ砲搭載艦として造ったはいいけど、出来たその日にこんなもんなんの役にも立たないと気づいたという」

「冥王星を撃つ以外で、波動砲ってなんの役に立つの?」

「さあ? なくていい砲を積んじゃったってことになるのかな」

「そんなもんをよりによって発進早々見せびらかしちゃった。このテレビはきっとガミラスも見てるんだぜ。艦長は何を考えてるのかな」

「艦長が何を考えてるかと言えば……」

とひとりが言ったところに、食堂に黒いパイロットスーツの男が入ってきた。航空隊長、古代進一尉である。

全員が目配せし合って黙り込んだ。一心にテレビを見ているフリをする。

画面の中でキャスターが、

『防衛軍では〈ヤマト〉の今後の日程について、極秘事項で明かせないとしています。太陽系を出る前に冥王星を攻略するかにつきましても一切コメントできないとのことで、今後の展開が注目されます』 

応えてコメンテーターが、

『いささか奇妙な気はしますね。機密なのはわかるのですが、あれだけ宣伝するかのように撃ち放ったものを、今更何も言えないというのも……波動砲などという兵器は、ガミラス基地を冥王星ごと吹き飛ばす以外の役に立つとは思えませんが』

『ワタシもそう思います。それ以外の装備理由をまったく考えることができない。冥王星を撃つのでなければ、何をどう考えても無用の長物なのですからね。やはり〈ヤマト〉は太陽系を出る前に、ガミラス基地を吹き飛ばしていく計画なのではないでしょうか』

『〈ヤマト〉にはそれだけの能力があると?』

『敵が百隻いようとも、長い射程を持っているか、〈ヤマト〉が速ければ逃げられるわけですからね。それは有り得ると思いますよ』

『軍はそこまで考えて〈ヤマト〉を造った……』

『そう考えるべきとワタシは思います』