敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯
『ありがとうございました。さて一方で、「冥王星を守れ」という運動も世界各地で起きているようです。「冥王星を準惑星から惑星に戻せ」と主張する人々はこの二百年絶えることなくいたわけですが、その彼らがあちこちで「〈ヤマト〉の波動砲反対」を叫び、抗議運動を起こしました。番組では次にこれを取り上げます。どうかチャンネルはそのままにして……』
噂の航空隊長は、軽い食事を手早く終えると立ち上がった。テレビの前の集団の方に眼を向けてくる。
一同はCMに集中するフリをした。古代一尉はトレイを返却口に置いてすぐに食堂を出ていく。
会話が再開した。「艦長が何を考えてるかと言えば、あれだけど……」
「不気味だよね」
「うん。言っちゃ悪いけど、存在自体が」
「〈スタンレー〉をもしやるとしたら航空隊も出すことになるんだろ。あれが本当に隊長やるのか?」
「まさか。〈ゼロ〉なんてすぐ飛ばせるもんじゃないだろ」
「けど、本当なら十日かそこらで太陽系を出るはずなのに、このぶんだと倍はかかるぜ。艦長、まるであの一尉が〈ゼロ〉で飛べるようになるのを待ってるみたいじゃないか」
「いや、それでも、二十日やそこらで……」
作品名:敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯 作家名:島田信之