敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯
無人戦闘機
「キュキューッ!」
アナライザーがひっくり返ってバラバラになった。爆発の電磁波をモロに食らったのだろう。〈がんもどき〉の計器類も異常をきたした。機がグラつき、墜落していきそうになる。
きりもみに降下。地面に激突寸前でどうにか体勢を取り戻した。
「な、なんだよ、今の……」
計器が正常に戻っていくのを確かめながら古代は言った。輪切りになったアナライザーがお掃除ロボットのように互いに床を這い回って自分の分身を探しながら、「地中ノ要塞ヲ攻撃スルみさいるデハナイデショウカ……」
そこに無線。『逃げろ! 敵に狙われてるぞ!』
「え?」
『上だ!』
とまた無線が言った。同時にビームが上から垂直に落ちてきて、〈がんもどき〉の機体をかすめる。
「わっ」
古代は上を見た。黒い機体がいくつも降るように落ちてくる。
『〈アルファー・ワン〉より〈ブラヴォー〉! そいつらはドローンだ! 〈オスカー〉を護り抜け!』
また無線の声が叫ぶ。さっきからの同じ声だ。〈タイガー〉隊のうちの一機ではなさそうだった。
ガミラス機が〈がんもどき〉に群がってくる。サッと通り過ぎたと思うと急旋回してまた向かってくる。殺られる、と思った瞬間、その敵に、上から突っ込んできた銀色の機がブチ当たった。
ふたつもろともに墜ちていく。なんだ?と思った。今のが無線で叫んでいた声の主か? まるで自分から体当たりしたように見えたが――。
だがそれよりも、ガミラス機だ。やけに小さいように見えた。そして、速い。あんなふうに動いたら、中の人間はたまらないはず――。
いや、『ドローン』と言っていたな。無人機? 人が乗る機では不可能な動きで目標を襲う飛行機型ロボットか!
冗談じゃない。そんなもんに狙われたら! そして気づいた。こいつらは、このおれだけを狙っている! 護衛の〈タイガー〉には目もくれず、〈がんもどき〉だけ墜とすようプログラムされてきているのだ!
とてつもなく速い機体が古代を襲い飛び抜けては、ブーメラン旋回してまた戻ってくる。どうやら四機いたものが、一機なくなり残り三機。
古代はひたすら機体を旋回させるしかなかった。〈タイガー〉らが無人機どもを追い墜とそうとしてるのがわかるが、速い動きについていけずにいるらしい。
一体なんなんだ、こいつらは! どうしておれだけを狙う! 救いと言えば、こちらに対して敵が速過ぎることくらいか。一瞬に飛び越してしまうため、なかなか狙いをつけられずにいるようだ。だからなんとか一度離せば――。
〈タイガー〉の一機がそれに気づいたようだ。グッと大きくインメルマンターン。無人機の後ろに着けてミサイルを放った。命中。敵は墜ちていく。
無人機の残りは二機! 古代は急降下をかけた。ここは大気圏内だ。バカ正直にビュンビュン向かってくる相手なら使える手がある。
「アナライザー!」叫んだ。「おれが『フラップ』と言ったらフラップを下げろ!」
「エッ、チョット待ッテクダサイ。ワタシ右手ガドコニアルノカ……」
「こらあっ!」
高度を落として水平飛行。無人機が誘いに乗った。
「フラップ!」
間に合った。アナライザーの操作によって機体がフワリと浮き上がる。後をついてきた無人機は失速して地面にブチ当たった。
「やった!」
が、そこに最後の一機が真正面から向かってくる。
もうダメだ、と思ったときにそいつはビームに撃ち抜かれた。爆発四散。
墜としたのは《隼》のマーキングをした〈タイガー〉のようだった。どうやら最後の一機となった敵を殺るのはそう難しくなかったとみえる。
古代は深く息をついた。
またチカチカとモールスが来る。そんな手段で通信する意味ももう今更なさそうに思うが。
アナライザーが言った。「『ついて来い』ト言ッテイマス」
作品名:敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯 作家名:島田信之