敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯
動揺
「〈ゆきかぜ〉? 古代の船か!」
〈ヤマト〉第一艦橋で声を上げたのは真田だった。聞いた太田が「古代?」と言って、怪訝(けげん)な顔で真田を見る。
だが、メインスクリーンに画像。戦没船〈ゆきかぜ〉の艦長として〈古代守〉に関するデータが顔写真と共に映し出される。
「古代守? 古代の兄貴?」
島が言った。それから真田に眼を向けた。真田が言った『古代』とは兄の方を指しているのだと合点はいったようすだった。だがなぜデータも見ないうちから、艦名を聞いただけで艦長の名がわかったんだ? そう訝(いぶか)しむ表情だった。真田は明らかに動揺している。普段のこの男らしくない。
「どういうことだ? 〈ゆきかぜ〉に生存者がいた?」
「まさか!」新見が早速にも端末のキーをものすごい速さで叩いて情報を分析しながら言った。「あの船が沈んでもう一年です。その宙域からここまで流れてくるのに半年はかかります。人が生きていられるなんて……」
「じゃあ、あの轍はなんだ!」
〈ゼロ〉が送ってきた画像を指して言う。凍りついた船の残骸のまわりに無数の、車両や人の足跡らしきもの。
「わかりません。でも――」
と、そのときだった。沖田が叫んだ。
「待て! 相原、古代に伝えろ! すぐそこを離れろと!」
そしてさらに、
「南部! 試射を中止しろ! 代わりに対空防御用意だ!」
作品名:敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯 作家名:島田信之