敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯
ジャンピング
上空では、斉藤の意図を察した山本が揚陸艇の機首をめぐらせていた。下の採掘チームの者らが交わす言葉は通信でこの操縦席にも伝わってくる。森のヒーターが壊れてあと数分のうちに凍死するのもだから山本は理解していた。
森を救う方法はひとつだ。船外服の生命維持パックをこの機に積んである予備のものと交換すること。ゆえに斎藤は、砲撃を避けてこの機が降りていける場所まで行こうとしているのだ。
それはわかるが、さてどうするのか。敵はこの機めがけても榴弾をドカドカと撃ち放ってくる。鴨に向かって鹿撃ち用の散弾銃を撃つようなものだが、しかし当たればひとたまりもない。
迂闊(うかつ)に行けばいいマトだ。砲撃を喰らわずに済む地点を見つけ、降下するのは容易でなかった。
グルリと大きくまわるしかない。山本は機をいったん上昇させ、ジグザグに操りながら斉藤の進む先を目指した。
湖面を三台のガミラス水陸両用車が浮いて進んでいるのが見える。地球の軍が持つそれに形が似ていなくもないが、やはりデザインは異様であり、亀が小亀を背中に乗せているかのようだ。むろん、小亀のように見えるのは榴弾の砲塔。
それが撃ち出すタマが弾け飛ぶ中を、斉藤がジャンプに次ぐジャンプで進む。これがクレー射撃なら散弾銃のいいマトだろうが、対人用ではない砲にはそんな動きを追って狙いをつけることも、榴弾の信管を斉藤の近くで作動させるようにもできはしないらしかった。そしてとうとう、斉藤は、コスモナイトの鉱石が露出する大きな岩山の陰に飛び込んだ。
山本は急いでその近くに機を降下させた。グズグズはしていられない。三台の水陸両用車は、今にも湖を渡り切り採掘チームに迫ろうとしている。
山本が機体を高さ2メートルばかりの宙にホバリングさせると、斉藤はハイジャンプで開いたドアに飛び込んできた。勢いあまって機体の中をバタバタ転がる。
「大丈夫ですか!」
『おう!』
斉藤は応えて自分の体を見た。耐スペース・デブリ仕様の船外作業服も、さすがにヨレヨレになっている。
『ちょいと穴も開いちまった……タイタンでなきゃ死んでるな』
それからこの揚陸艇に装備されたビームガトリングガンに取り付いた。機体側面のドアをスライドさせて銃口を外に出す。
山本は言った。「それ、扱えるんでしょうね?」
『メカニックがメカを使えないと思うのか?』
「いいえ! しっかりつかまっててください!」
『おおうっ!』
言ったが、山本が機をバンクさせると斉藤は外に投げ出されかけた。
『わわっ!』
作品名:敵中横断二九六千光年1 セントエルモの灯 作家名:島田信之