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銀魂 −アインクラッド篇−

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「丁度、その坊やぐらいの孫がいてねぇ。あちらでは寝たきりの私のためにせめてゲームの世界で自由に歩き回らせてあげるといって、孫よりも先に使わせてもらったんだよぉ。ファファファッ!おかげで数十年ぶりに『歩く』ことができたが、・・・まさか囚われることになるとはねぇ」
「わ、悪いな爺さん。変な事聞ぃちまって」
「気にすることはないよぉ。囚われたといっても孫のおかげでまた歩くことができる『足』を手に入れたのだからねぇ。これも、また人生だよぉ。ファファファッ!」

職人の顔に再び笑顔が戻り、皿に置いていたスプーンをまた手に取る。

―――そのような会話を耳にしていたサムは昔、配送先で小耳に挟んだことを思い出していた。
本当か定かではないが、現実世界では長い闘病生活のため寝たきりの患者のために医療用の仮想現実マシンを用いて生活をするというプロジェクトが存在するという。今回のケースとは全く関係がない。しかし、この職人も現実世界では寝たきりなのだ。それを解決してくれたのが『ソードアート・オンライン』でもある。

「おじいさんは、今の生活に『満足』しているのですか?」

サムは思わず聞いてしまった。
怒られるであろうか?
悲しませてしまうだろか?

しかし、その質問の答えはすぐに帰ってきた。

「満足しているよぉ。現実では歩けないからねぇ。女房にも会えないし、孫にも会えないから寂しいと思う日もあるけど、あちらにはないものをこちらで手に入れてしまったからねぇ。ファファファッ!・・・それでも、もう一度会いたいねぇ・・・この手で、抱きしめたいねぇ・・・まあ、どのような事が変わっても、人生という道を歩いていることには変わりないだーよ」
「おじいさん・・・」
「私はただの老いぼれだから剣も持つこともできないし、ましてや人の役にたつこともできないよ。こうやって、隠居生活のように趣味に没頭して、たまにくるお客さんの相手をして、一日一日を暮らしていくだけだーよ。こうやって生きていけば、きっと良いことがあるさぁ。ファファファッ・・・あとは、あちらの世界の私の身体が持つまで、生きていたという思い出を作っていくだけだよぉ」

その言葉を引いてサムは身体中の血の気が引いた。

そうだ・・・忘れていた。
こちらの世界ではHPが0になれば死が訪れる。
―――しかし、それだけではない。

ゲームが開始されてほぼ2年。現実世界の自分たちの身体はきっと自宅ではなく専用の医療機関に運ばれているはずだ。無数のコードに繋がれ、食事も一切取ることもなく長期間寝たきりなのである。・・・・そのような状態がいつまでも続けられるわけがない。現実世界の自分の身体がダメになれば、結果としてこちらの世界で死が訪れる。それは、いつ訪れるのかはこちらからではわからない。―――恐怖でしかない。

この人は、他のプレイヤーのように攻略に縛られることがなく日々を生活している。しかし、心のどこかでは無意識でそれを察している。それを、受け入れている。

「もう一度、会えると良いですね」
「私はそれを願って暮らしていくだけだーよ。ファファファッ!」

考えて考え抜いた結果、その返答を出したサムに対し、職人はまた特徴的な笑いをしながらスプーンを動かし、皿を空にさせた―――。