銀魂 −アインクラッド篇−
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『ソードアート・オンライン』
・第二十二層 南西エリア南岸 キリトとアスナの家
「・・・とりあえず、もう一度確認の意を込めてこの前に起こった出来事を、お互いが持ち得る情報の共有をしようではないか。俺達が対峙したラフィン・コフィンのあの女性は文字通り化物だった。・・・『人間』ではない。彼女は確かにそう言った。これは一体何を意味するのか・・・確か、彼女の名は・・・――――あ、泡立て器とってくれない?」
「泡立て器・・・確かにこいつぁある意味、化物なのかもなぁ。だってメレンゲ作るのにすっげぇ手が疲れるし。ただの調理でここまで体力をごっそりと持っていかれる器具もそうなかなかねぇよ。あと、桂たちが出会ったというその女の行動にどうも疑問が残る。指示をされた・・・か。そういえばアスナさん、アビルパ豆とサグの葉を剥き終わりましたが、アスナさんはどう思います?」
「ありがとうゴリラさん。彼女を指示した人は私達のすぐ傍にいる、と言い残していたわ。一体誰がそんなことを・・・ゴリラさん達が対峙した男の人も同じことを言っていた・・・ギンさんとキリト君に繋がりがある人?そんな人居たかしら?・・・あと気掛かりなのがもう一つ、本来であればウーラフィッシュの骨をここに追加するのだけど、その変わりにドランクエイプの骨髄を使えば更に濃厚にできそうなのよね。どうする?トシさん」
「なるほどな・・・この二人に通ずる『黒幕』がいるってことか。それも、すぐ近くにいる人物の誰かが濃厚か・・・。副団長様の言う通り、俺達が追い詰めたあの野郎に指示をしたのは間違い無く同一人物だ。どちらにせよ、俺の目の前に現れりゃ容赦無くたたっ斬る、それだけさ。―――ここまできたら徹底的にやらせてもらおう。さあ、必要な数量を言ってくれ。すぐにドランクエイプを狩ってくる」
「なあギンさん」
「なんだ?キリト」
「俺たちって今、何をしているんだ?」
「何ってお前ぇ、今後の攻略に向けての打ち合わせだろぉが」
キリトとアスナの家に銀時と土方、近藤とさらには桂が集合し、以前自分たちが対峙したラフィン・コフィンの二人について情報交換を行っていた。調理をするにあたり自分達に与えられた役割を各々が責任をもって遂行し、アスナが持ち得る知識を全員に共有、フル活用して料理などにかかせない調味料の一つ、『マヨネーズ』の作成に取り掛かっていた。
「いや、おかしいよね!?やっぱりただ料理しているだけだよね!!?ナレーターの人もマヨネーズ作っているって断言しているよね!?調理している描写のほうが多いからそっちの説明のほうが長かったよね!!?」
「キリト君?パーティーっていうのはね、こうやって一つの目的を一緒に達成していくことによって初めて連携をすることができるの。私たちは出会って日が浅いのだから、少しでも共通の目的を通じて互いがどのような人物なのか学ばなければいけないとは思わない?」
「他に幾らでも方法あるよね!?わざわざ料理する必要なくない!?あとなんでマヨネーズ!!?」
「おいガキ・・・血盟騎士団の副団長様がこうして直々に調理をして下さってんだ。『わざわざ』俺たちの為にな。甘えたことぬかしてんじゃねぇ。次に俺の前で同じこと言ってみろ?容赦しねぇからな・・・・あ、副団長様。ウーラフィッシュから骨を取り終わりました」
「ほぼあんた一人の為だからァァァッ!!あんたがアスナに土下座してまでマヨネーズ作ってくれっていうから仕方なしに作っているだけだろォォォッ!!?」
キリトの言う通り、事の発端は土方だった。
銀時がキリトとアスナの目の前に再び現れたその夜、せっかくということで夕食をご馳走してくれた。メインディッシュの煮込みハンバーグを筆頭に様々なご馳走がテーブルに並べられていたのだが、そのサイドメニューの一つを見た瞬間、土方の身体に衝撃が走った。
ポテトサラダの横に、見覚えのある調味料が置かれていた。
それは、この世界に訪れる一年半前までの相棒というべき存在だった。
・・・マヨネーズ・・・?
土方は一瞬で周りが見えなくなり、飢えたハイエナの如くそれを奪い家主の承諾も聞かず容器に入っていた『それ』をすべて口の中へと入れ、舌の上で踊らせる。
―――間違いない、『本物』だ。
その瞬間、土方は天にも昇るような幸福感が身体の奥底から湧き出し、瞳から一筋の涙が流れた。これをどこで手に入れたと二人に問うと、なんと血盟騎士団の副団長であるアスナが独学で作ったというものなので、今までどこか毛嫌いをしていたトップギルドへの偏見が一瞬で消え去り、気が付けば土方はアスナの前で土下座、床に頭を擦り付けていた。
「あの時、副団長様が『レシピを教えますから一緒に作りましょう』と、言って下さったとき、俺の目の前に女神が舞い降りたと錯覚した。それから俺はこの人を、いや、副団長様に俺の命を捧げようと心に誓った」
「てめぇが命を捧げたのは嬢ちゃんじゃなくて嬢ちゃんの持つ料理スキルだろ」
「相棒がいなくなって一年半・・・まさか、『これ』を生成できる女神に出会えるとは思ってもいなかった・・・改めて、副団長様。俺はあんたに一生着いていく。俺の命はあんたのもんだ」
「いや、マヨネーズだけで大袈裟だろ。何?お前の命は調味料と同等なの?」
土方はアスナの両手を掴み、自分の胸元に寄せて目を輝かせる。銀時のツッコミすら聞こえないほど土方はアスナに夢中だった。普段の彼からでは想像がつかないほどの豹変ぶりなのだが、よほど一年以上のマヨネーズ未接種が答えたのか、やや我を忘れかけている土方に銀時は頬を引きつらせていた。
それとは別に、キリトは心の中でなにかもやもやとした感情が生まれていた。
「なああんた。マヨネーズさえあればアスナは別に良いだろ?レシピも教えたことだし何もアスナに命捧げなくても良いんじゃない?」
「副団長様は相棒を創造して下さった女神だ。なんなら女神パルテナ様だ。パルテナ様を守るのはピットである俺の使命だから。てめぇが出てくる幕はねぇ引っ込んでろイカロス」
「へぇ〜あんたピット君だったんだ。だったらナスビ使いが使うナス爆弾には十分気を付けることだな。あんたのV字の前髪ごと顔がナスビに変わるからな。あと体力無くなってもこの世界じゃ『ヤラレチャッタ』は通用しないからな」
「おい・・・調子に乗んじゃねぇぞガキ。てめぇごときがパルテナ様守れると思ってんのか?あ?画面上に出てきても大した活躍もできずにいつの間にかヤラレチャッテる雑魚が親衛隊隊長に向かって何を大口叩いてんだコラ」
「トシ!ちょっと落ち着け!!仮にも俺たちは仲間なんだぞ!?」
「キリト軍曹も落ち着くのだ!ヤラレチャッテも良いではないか!天使だもの!」
次第に口論をヒートアップしていくキリトと土方に対し近藤と桂は二人を沈静させようとするも、そんなことお構いなしに鎮火するどころかさらに燃え広がっていく。ちなみに銀時は巻き込まれるのが嫌だったのか、耳に小指をいれながらあくびをして口出ししなかった。
作品名:銀魂 −アインクラッド篇− 作家名:a-o-w



