銀魂 −アインクラッド篇−
銀時に見かねた近藤は黙っていられなくなったのか重い腰を上げて彼の元に寄り刀を突き付けた右手を掴む。しかし、銀時はそんなことお構いなしに突き付ける右手の力を弱めない。
「別に根拠なんざねぇよ。だが、どうしてもこの野郎におかしい点がある。・・・ゴリラ、俺達『侍』は今まで幾多の戦場を歩いてきた筈だ。だったら言わなくてもわかるはずだろ」
「おかしい点だと?・・・いや、よくわからんが」
「おいおい、ついに頭までゴリラになったのか?」
「いや、ゴリラじゃなくてゴリ=ランだから!最初からゴリラにはなってねぇから!」
「見てみろよ・・・あんだけ激しい戦闘を行った癖に団長様からは『疲労』が一切見受け取れねぇ。どんな強ぇ野郎だろぉが、それが夜兎だろぉが、となりのペドロだろぉが、これだけの長時間の戦闘を行えば少なからず『疲労』が発生するはずだ。・・・団長様、あんた一体何者だ」
「・・・・っ・・・・」
その時、ヒースクリフはピクリと片方の眉を動かした。
銀時の説明には確かに説得力がある。
彼の言う通りだ。
やはり同じことを考えていたのだなとキリトは同感する。
そんな銀時の問いに対し、ヒースクリフは一つ、ため息をして口を開いた。
「・・・だとしたら、君は私をどうするのかな?私の正体を聞いてなにかが変わるのか?何が気に入らないのかね?」
「あぁ気に入れねぇよ。最初に変だと感づいたのはあの決闘―デュエル―の時さ。俺とキリトが戦っている最中にラリホーマ以上の睡眠から強制的に目覚めて、まるでザ・ワールドを使ったみてぇに俺達の中心に突入してきたことだ。あんな動き、『人間』には絶対できねぇ。そこまでして、俺達を止めたかった理由があるのか?それと、もう一つ―――」
銀時は右手の黒刀に入れる力を更に強める。
あまりの力に近藤は無意識に手を放し二、三歩後ろへと下がった。
銀時の顔は――――「鬼」へと変貌していた。
「俺と・・・ましてや、キリトすらもやろぉとした奴どもの頭・・・・どう考えても・・・いくら考えても、俺達の共通点がてめぇしか思いつかねぇ・・・ッ!!もう一度聞くぜっ・・・全部吐いてもらおぅじゃねぇか!!ヒースクリフ!!!!」
この時、キリトは自身の中でバラバラのパズルのピースが一瞬にして繋がり、一つの絵へと完成した。
何故、もっと早く気が付かなかったのか?
ラフコフの残党、レフティの消滅間際に言い残した敵が身近にいるという言葉。
銀時と自身の共通点・・・目の前にいたではないか。
しかし、ヒースクリフはあくまで他人事と言わんばかりに落ち着いた口調で再度、口を開く。
「わからないな。だとしても君とキリト君が繋いだ『点』はまだあったはずだ。なぜ私なのかな?」
「いいや、てめぇ以外考えられねぇさ。あいつらはそんなことしねぇよ」
「根拠がないな。いくら何でも理不尽だと思わないかね」
「無くったって、『眼』をみりゃわかる。てめぇ、自分の顔を鏡で見たことねぇのか?」
「眼・・・だと?」
「ああ。てめぇが俺達を見る『眼』・・・まるで―――織の中で遊ぶ子ネズミどもを見るような眼をしてるぜ」
―――今しかない。
友人が暴いた聖騎士ヒースクリフの秘密を解明するのは、今しかない!
この場所であればそれが可能だ。
だが、これが失敗すれば犯罪者プレイヤーに転落し、容赦ない制裁を受けることになるだろう。
「キリト・・君?」
アスナがハッとした表情で、声に出さず口だけを動かした。
だが、その時にはもうキリトの右足は地面を蹴っていた。
(ヒースクリフのHPはギリギリ青、あと、ほんの一撃を受ければイエローゾーンに突入する!前々から気になっていたんだ、誰も彼がイエローになった瞬間を見たことがない!もし、彼がイエロー表示になれば一体どうする?)
キリトとヒースクリフの距離は約十メートル。
床ギリギリの高さを全速で一瞬にして駆け抜け、キリトは右手の剣を捻りながら突き上げた。片手剣の基本突進技『レイジスパイク』。威力の弱い技ゆえこれが命中してもヒースクリフを殺してしまうことはないが・・・
―――しかし、予想通りであれば。
ペールブルーの閃光を引きながら左側面より迫る剣尖に、ヒースクリフはさすがの反応速度で気付き、眼を見開いて驚愕の表情を浮かべた。咄嗟に左手の盾を掲げ、ガードをしようとする。
「キリトッ!?」
銀時も突然の事で思わず彼の名を呼んだ。
それと同時に剣尖がヒースクリフの胸に突き立つ。
まさか、本当に直撃するとは思っていなかった。
おそらく、銀時から放たれていた威圧に耐えることで精一杯だったのかもしれない。
しかし、その剣尖は目に見えぬ障壁に激突した。キリトの腕には激しい衝撃が伝わった。紫の閃光が炸裂し、キリトとヒースクリフの中間に同じく紫―――システムカラーのメッセージが表示された。
『Immortal Object』
不死存在。
か弱き有限の存在たるプレイヤーにはあり得ない属性。
「キリト君、何を!・・・・」
キリトの突然の攻撃に、驚きの声を上げて駆け寄ろうとしたアスナがメッセージを見てぴたりと動きを止めた。
キリトも、ヒースクリフも、クラインや周囲のプレイヤーたちも動かなかった。
静寂の中、ゆっくりとシステムメッセージが消滅した。
キリトは剣を引き、軽く後ろに飛んでヒースクリフとの間に距離を取る。
数歩進み出たアスナとすぐ目の前にいた銀時がキリトの両横に並んだ。
「システム的不死?・・・・どういうことですか?・・団長?」
戸惑ったようなアスナの声に、ヒースクリフは答えない。
厳しい表情でじっとキリトと銀時を見据えている。キリトは両手に剣を下げたまま、口を開いた。
「これが伝説の正体だ。この男のHPはどうあろうとイエローまで落ちないようシステムに保護されているのさ。・・・前々から気になっていたんだ。なぜこの男はここまで『硬い』のか・・・。不死属性の可能性があるのは、NPCでなければシステム管理者以外ありえない。だが、このゲームに管理者はいないはずだ。ただ一人を除いて・・・この世界に来てからずっと疑問に思っていたことがあった。『あいつ』は今、どこから俺達を観察し、世界を調整しているのだろうってな。でも俺は、単純な真理を忘れていたよ。どんな子供でも知っていることさ」
キリトは紅衣の聖騎士にまっすぐ視線を据え、言った。
「他人のやってるRPGを傍から眺めるほどつまらないことはない・・・そうだろう
―――茅場昌彦」
全てが凍り付いたような静寂が周囲に満ちた。
ヒースクリフは無表情のままじっとこちらに視線を向けている。周りのプレイヤーたちは皆身動きひとつしない。いや、できない。
「つまり・・・こいつが、団長様がこの世界のお天道様ご本人ってわけか」
「そうだ。この世界を作った張本人さ」
そう。彼こそが、この世界の創造主。
そして、この世界に幾多の魂を閉じ込めた張本人。
『GM』ゲームマスター
茅場昌彦。
「・・・何故気づいたのか参考までに教えてもらえるかな?」
作品名:銀魂 −アインクラッド篇− 作家名:a-o-w



