銀魂 −アインクラッド篇−
・・・
『ソードアート・オンライン』
・第七十五層 迷宮区 ボス部屋
「遅い。貴様の実力はその程度だったか?」
「ッ!!くっ・・・」
一瞬の油断も許されない。
宿敵から押し寄せる斬撃はあまりにも速かった。
銀時はライトと戦闘を開始し始めてから早五分で劣勢となっていた。以前、対峙した時よりも遥かに剣が速くなっており、銀時の立ち回り方も学習をしている。装備も変えて互角かと思いきや、それは誤算であった。
剣を振り下ろすと彼は正確な角度、正確な力量、正確なスピードで全てを防ぐ。
全てが計算され尽くされた太刀筋―――文字通り、まるで機械―からくり―だ。
銀時は一度、距離を取るべく後方へとジャンプするが、ライトのエクストラスキル『断空斬』がそれを許さない。
次の瞬間には自分のすぐ目の前で真上から下へと振り降ろそうとする宿敵の黒刀が迫っており、呼吸を整えつつそれをガードする。
「ったく、本当に化物だったとはな。ちったぁ手加減しろよ」
「茅場の命令は絶対。お前を消す」
「てめぇは奴の傀儡人形って訳か。どこにも糸は見当たらないが・・・なッ!!」
銀時は己の持つ全ての力を出し、ライトの黒刀を弾き返す。
ほんの一瞬ではあるもののライトの胴体ががら空きとなり、銀時はそこに目掛けて突きを放つ。―――しかし、ライトは銀時の次の手がわかっていたのか、顔色一つ変えずに最小限の動きのみでそれを回避、銀時より距離をとるべく間合いを開けた。
その戦闘を間近で見ていた茅場は床に横たわる土方の元へと移動し、慈しむような眼で話しかけた。
「すまなかったね。君たちをこのような状態にさせてしまって。ライトのお陰で君たちのアバターデータの詳細を入手することができた。君たちにはキリト君と同じ麻痺状態とさせてもらったよ。すまないがこの戦いを終えるまでそこを動かないでほしい」
「・・・てめぇの目的はなんだ。こんな手間をして一体何になる・・・っ!」
「この世界はゲームだ。だが、ゲームであっても遊びではない・・・これも一つの戦いなのだよ」
「戦いだぁ・・・?本当の戦場も見たことねぇ野郎が偉そうなことぬかしてんじゃねぇ・・・っ!」
「なんとでも言うが良い。ただ、約束したことは守ろう。―――彼が勝利できれば。だが」
ヒースクリフが一呼吸置いた後、まるでそうなると予知していたように銀時は派手に吹き飛ばされ、何度も床に体を叩きつけた後に力が抜けたように倒れていた。身体中が切り刻まれ、既に虫の息の状態だった。
それもそのはずである。
以前も3人がかりで互角だった相手をたった一人で戦っているのだ。
しかも、つい先ほどまで長時間に渡り化物退治をしたすぐ後でこの戦闘だ。
誰がどうみても勝敗は予測できる。
だが、ここで負けてしまえばもう後はない。
残り二十五層の攻略などまず不可能だ。
「チッ・・・初心者にこれ以上の重荷を負わせるんじゃねぇ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
銀時はよろめきながら再び足腰に力を入れなんとか立つ。
剣を握る両手に力を込める。
直撃は回避できたものの無数の斬撃によりHPバーはごっそりと減らされ、あと一撃を受ければイエロー表示となる。
それに対し、宿敵は傷一つ負っていない。
息も上がっておらず、まるで集団から迷子になってしまった一匹の蟻を見るような眼でこちらを見据える。
「何故戦う?」
「・・・あぁ?どういう意味だ」
「貴様には勝機がない。それを一番理解しているのは貴様のはず。これ以上の戦闘に意味はない」
「んなもん、やってみなきゃわかんねーだろ」
「やはり貴様ら『人間』は愚かな生き物。計算上では貴様の勝率は2.11293%・・・残りの97.88707%は俺の勝率」
「なんだ、2%も俺に勝機があるんじゃねーか。てっきり1%より更に下回ってるかと思っていたぜ」
「・・・いや、2%しかないのだが」
「それをちょいとでも希望を見ぃ出すのが俺達人間だ!」
「理解できない。根拠がない」
「てめぇぶっ潰すのに根拠なんか必要ねぇェェェェッ!!!!」
銀時は再びライトの元へと間合いを詰めるように走り出し、その勢いに任せて両手で右斜め上から左斜め下へと黒刀を振り下ろす。しかし刀身は虚空を斬り刻むのみで彼の体には当たらなかった。
「貴様は、焦り始めると力任せにその動きをしようとする。今回で8回目」
「チッ!」
「そして次に貴様は体を時計回りに回転させて垂直斬りを放つ」
「ッ!!」
ブオンと、再び虚空を斬る音が響いた。
己の刀身が当たらない。
これもまた回避され、気が付けばライトは一瞬で銀時のすぐ間隣に移動、力が抜けたように立っていた。
「これが真剣であれば貴様の命は無い。悪いが次は斬る」
「ッ!!!?ブッ・・・ふ・・・ぅ・・・」
銀時の腹部に宿敵の右拳が入る。鍛え上げられた己の身体がまるで豆腐に指を突っ込んだかのようにめり込み、体の奥深くから痺れに似た不快感が込み上げてくる。それに耐えきれなくなった銀時は無意識に後方へと下がり再び膝を着いた。
「はぁっ・・・はぁっ・・・舐めたことしやがって・・・」
「これで理解したはず。貴様はどうあがいても俺に勝てない。茅場からの制限解除のお陰で俺は今、全世界のネットワークに繋がっている。貴様の動きの予測の他に、現実―リアル―における様々な武術や歴史に名を刻んだ強者達の動きをリアルタイムでフィードバックしている。どのような剣の型も俺の前では無意味。解析するのに一秒もいらない」
「つまり、今のてめぇは未来を予知すらできるってことか・・・俺の剣が届かねぇわけだ」
「今の俺は無敵・・・貴様を消した後、今度はあの二刀流の男を消す。あの男は妹の仇」
「そいつは無理な話だ・・・キリトはやらせねぇ・・・てめぇは俺が倒す!」
「笑止。どの口が物を言う―――っ!」
銀時とライトの衝突が再び開幕される。その動きを捉えられているのはこの場で何人いるのだろうか。並大抵のプレイヤーではおそらく視認はまずできないだろう。
(ギンさんッ!!・・・だ、駄目だ!身体が全く動かない!早く加勢しないとギンさんがもたない!いくらなんでも無謀だ!)
「キ・・・キリト・・・くん・・・」
「っ!アスナっ!?」
掠れた声がキリトの後方から聞こえてきた。その声の主は十分理解している。
しかし、彼女の声に覇気がない。
体が動かせない為、彼女に聞こえるようにキリトは返答する。
「アスナ!身体に異常はないか!?」
「身体は大丈夫・・・だけど・・・色々とありすぎて気が動転して・・・今にも気絶しちゃいそうで・・・」
キリトも本心は彼女と同じだった。
なにもかもが変わりすぎて、この状況に精神が着いていけないのだ。
まるで、常に身体中の血の気が引いているような感覚だった。
できることなら、今すぐ彼女を自分の胸に引き寄せて抱きしめたい。
今にも崩れ落ちそうな彼女の身体を支えたい。
キリトは動かない身体に必死に力を込めて気絶しないように精神を集中させる。
「アスナ!俺達の為にギンさんがたった一人で戦っているんだ!気を強く持て!」
「うんっ・・・ありがとうっ・・・キリト、くん・・・」
作品名:銀魂 −アインクラッド篇− 作家名:a-o-w



