銀魂 −アインクラッド篇−
・・・
「うぃ〜・・・ひっく・・・あ〜食ったな・・・」
「ギンさん飲み過ぎ。まあ、あと数分もすれば正常に戻るから、そのアルコール酔いに似た感覚が無くなるよ」
「二日酔いがねぇとはな〜、流石デジタルだわ」
食事を始めて二時間が過ぎた頃、部屋は当初来た頃とは見違えるように小汚くなり、辺り一面に飲み物をこぼした跡や割れた皿の残骸が散乱している。エギルは日頃の仕事が忙しかったためか高級そうな3人掛けのソファーを一人で陣取り、いびきをかきながら寝ている。クラインは頬を赤らめながら最後の一杯をグイっと飲み干した。
「ふぅ〜美味かったぜ。よし・・・そんじゃ、これで借りは返したのと、前祝いはおしまいだ!・・・そんでぇ、こっから俺の、いや、俺たちの頼みがちょっとばかしあってだな・・・」
「ん?なんだよクライン。急にかしこまって」
「ま、まあ俺から話すより、店長から直接話してもらったほうが良いか・・・」
キリトは頭にクエスチョンマーク。クラインは申し訳なさそうにこの店の店長をダイレクトメールで呼び、数分経った後に腰が低そうにVIPルーム内へと入ってきた。
「・・・クライン?」
「・・・ふぅ〜・・・・・・っ!キリト!!一生のお願いだ!!」
急に、クラインはその場に立ち、キリトへ深々と頭を下げる。何事かと銀時も驚きを隠せず、キリトも変な声を出してしまった。
「びっくりした!一生のお願い!?いきないなんだよ!!?」
「わ、私から話させて頂きます!キリト様・・・あなた様にお願いがあるのです!!どうか当店の窮地を救って頂きたいのです!!」
「はぁ!?窮地!?一体どういう意味だ!!」
クラインに続き店長も深々と頭を下げてきたものなので、キリトは頼まれている身であるのに何故だか変な汗が流れ始めた。
「明日、この店にはとある『ギルド』のお偉い方々の御一行が来ます!当店を経営するにあたって出資をして頂いているギルドなのです!!」
「それが一体、俺とどういう関係が!?」
「実は・・・明日、そのギルドより予約を頂いている時刻に当店の緊急メンテナンスが入ってしまいまして・・・メインで稼働している接客用女性型NPCが一体も使用できない状態なのです!!クライン様より聞いております!!キリト様、あなたは多数の女性プレイヤーと面識があると!!」
「クライン!?」
「すまねぇ!!」
「おまけに、その女性プレイヤーの方々はとても美しいと!!」
「クラインッ!!?」
「本ッ当にすまねぇッ!!」
「お願いです!!どうか、明日の夕刻までに、その女性プレイヤーの方々をなんとか説得して頂いて、当店に来店していただくギルドの方々に接客をお願いして頂きたいのです!緊急用の接客型NPCを用いても足りません!最低でも、あと、『2人』!2人だけでもなんとかお願いできないでしょうかァァァァッ!!?」
「嘘・・・だろ・・・」
―――キリトは察した。やはり今回は裏があったのだな、と。ここまで待遇を良くしてくれるのも納得できる。クラインにも色々と言いたい事があるにしても、ここまで好き勝手してしまえば断る事もできない・・・。口に出さなくても答えは一択ではないか。
「ほら見ろキリト。飲みの場っていうのはこういうリスクが付きまとうもんだ。お前ぇもちったぁ学習できただろ?これが大人の世界だ」
「一番好き勝手やっていた大人が何言ってんだ!?だいったい!俺の知り合いは皆、俺と同じぐらい、もしくは年下しかいないぞ!?間違っても飲ますことはできないけど!?」
「ご安心ください!もちろん、テーブルに御出しする類の物は全て安全な物にすり替えて置きます!あと、謝礼も十分、いや、十二分に出します!今回を上手く乗り越えられれば、今後も当店にご来店して頂いた時に多大なサービスをさせて頂きますので、ぜひとも御力を!!」
「・・・サービス?」
――――その時、キリトは揺らいだ。
金欠という訳でもないのだが、食費をもっと浮かせることができれば、より良い装備の調達に繋がる。おまけに、アスナ程ではないにしても、またここで美味しい食事をとる事も可能というわけだ。おそらく、今回を逃してしまえば二度とこういう類の店に入る事はできないし、美味しい料理もアスナがいる時にしか食べられないので、いつでも美味しい食事ができる環境が手に入るのはあまりにも大きい見返りだ。
・・・よし。決めた。
「しかたがな―――」
「仕方ねぇなぁ〜。俺ぁこいつの親ってわけじゃあねぇが、そこまで頼まれれば俺たちも断れねぇしよ。よし、キリト。ここは俺たち『万事屋』が一肌、脱ごうじゃねぇか。安心しろ。俺も今回の件、手伝わせてもらうぜ」
「な゛ッ!?」
「さっすが将軍殿!話が早い!キリトも何とか頼むぜ?な!この通りッ!」
「有り難うございます!有り難うございます!謝礼はちゃんと用意しておきますので、何卒・・・よしッ!やったッ!!」
やられた・・・。忘れていたが、こちらには汚い大人代表のギンさんがいたではないか・・・!!
今の状態で自分が了承をすれば必然的に手柄は全て『自分』の物になるのだが、こうやって自分も手伝うよアピールを行うことによって、報酬に関しては自然と『分配』せざるを得なくなるからだ。汚い・・・どこまでも汚い!!
キリトは声に出さず銀時を睨みつける。するとどうだろうか、銀時はにぃっと汚い笑顔を返した。
そしてキリトは、やはり自分の考え通りだったと、強く拳を握りしめた。
―――なるほど・・・これが『大人の世界』か。
キリトはまた一つ、新たな知識を得た。
作品名:銀魂 −アインクラッド篇− 作家名:a-o-w