銀魂 −アインクラッド篇−
・・・
『ソードアート・オンライン』
・第四十八層 リンダース 鍛冶屋へと続く小道
―――翌日。
クラインの知り合いの店である店長からの『依頼』通り、キリトと銀時はまず1人目の知り合いの女性プレイヤーの元へ向かっていた。キリトはやや不機嫌ではあったのと同時に、少しでも見返りに心を揺らがせた自分の弱さにも内心腹が立っていた。
「お前ぇの事だから、まず一人目は嬢ちゃんかなって思っていたが、誘わないのか?」
「アスナは絶対駄目だ!他の男の接待だなんて・・・見てらんないよ」
「?・・・べつにお前ぇの嬢ちゃんじゃねぇだろ」
「そ、そうだけど・・・でも、駄目だ」
「ふっ・・・悪ぃな、変な提案しちまって」
「・・・なんでちょっと笑った?」
「別に」
キリトは本当に彼女をずっと意識していることに気が付いてないのだろうか?
少しだけ面白くなってきた銀時はキリトに対してあえて何も言わなかった。
「そういえば・・・キリト。お前ぇあの鍛冶屋の嬢ちゃんにはどうやって説得するんだ?」
「どうやって。って・・・今日の夜、誰だかわからないけど男の人と一緒に食事してくれって言うつもりだけど」
「馬っ鹿お前ぇ!んなこと言ってはい行きます!っていう女がどこにいるんだ!」
「だ、ダメなのか?困ったな・・・」
「お前ぇさんは戦闘に関しては人一倍達者だが、こういう事に関しては無知なんだよ」
銀時は一旦歩くのを止めて誘い方を教えるべく、キリトに説明を始める。
時間が無いのにな・・・と、困り気味のキリトは軽く頷きながら説明をほぼ流した。
「いいか?銀さんもそんなに経験がある訳じゃないが、まず誘う時にしっかりと相手を見つめろ。頼む態度を作らねぇとな」
「はいはい・・・人に物を頼む態度・・・と」
「次に、その誘いに関して何かメリットを与えることが大事だ。メリットがなきゃ、お人よしでもない限り誰も動こうとしねぇ」
「はいはい・・メリット・・・」
「そして、てめぇがいないと困るんだ、という意思をしっかりと見せつけるんだ。軽い感じで伝えても、他の人に頼めば?っていう感じになる」
「はいはい・・・事の重大さ・・・ね」
「最後はしっかりとお願いをする。こんな感じで大体の奴は引き受けてくれるはずだ。忘れんじゃねぇぞ?」
「わかったよ。ほら、急ごうぜ」
キリトは足早にリズベットの鍛冶屋へと再度、歩き始めた。
歩きながら銀時から教えてもらった人へのお願いの仕方の復讐―――。
態度・・・メリットを与える・・・意思・・・事の重大さ・・・お願い・・・
キリトは何度も何度も復唱をしながら歩き、気が付いた時には鍛冶屋に到着していた。
「いらっしゃいませ〜・・・なんだ、キリトにギンさんか」
「あっ、キリトさん!それにおじさんも!」
「あれ、シリカ?」
「おっ、こいつぁ丁度良い」
タイミング良く、リズベットの鍛冶屋にはたまたま遊びにきていたシリカの姿があった。リズにお願いした後に頼もうとしていた人物がまさかここにいたものなので2人は移動の手間が省けたと内心でガッツポーズをした。
・・・しかし、銀時は不安だった。
目的の人物たちは2人とも目の前にいるのだが、一番の不安要素がキリトだ。
先程、必要最低限の事は教えたつもりだったが、はたしてそれをしっかりと伝えることができるのだろうか?
そんなことを考えているうちに、早速キリトが動き始めた。
「―――2人とも、ちょっといいか?」
「何よ、急にかしこまって」
「なんですか、キリトさん?」
キリトはいつもよりやや低めの声で2人に問いかける。俗に言う『イケボ』だったのでリズベットとシリカはキリトの豹変ぶりに少々驚いていた。
「急な頼みとなる・・・だけど、聞いてほしい。お前たちが必要だ。・・・本当に必要なんだ」
「・・・え?」
「私たちが・・・ですか?」
キリトは目尻をやや上げ、ゆっくりと2人の近くまで歩み寄る。キリトは2人の綺麗な瞳をしっかりと見続けるものなので、照れくさくなった2人は自然と視線を逸らした。そのうち、2人の心拍数は高くなっていく。
「な・・・何よ・・そんなに見られたら恥ずかしいわよっ・・・」
「キリトさん・・・」
「短答直入に言う。今夜・・・(誰かわからない他の男と)一緒に・・・食事をしてほしいんだ」
「へっ!?」
「そ、そんな・・・でも、アスナさんは?」
「アスナ?・・・いや、アスナじゃ(他の男と一緒にいるのが見ていられないので)駄目なんだ。だから、リズ・・・シリカ・・・お前たち2人が良い・・・頼むよ」
「待ってよキリト!私は!・・・アスナをっ・・・裏切れない・・・あんたたちの事は知っているつもり。だけど!私はアスナのこと、親友だと思っている!アスナを犠牲にしてまで、私はキリトと一緒に―――」
「でも、俺はリズじゃないと駄目なんだ!君が必要だ・・・頼む!」
「っ!」
「リズっ・・・俺はどうしても・・・君の体が必要なんだっ・・・」
「へぇっ!!?か、かかかっ身体!!?」
「もちろんシリカ!君の体も!」
「わっ・・私の身体ですか!?・・・そんな、そ・・・そういうこと漫画でしかみたことなくて・・・よくわからないし・・・」
「俺が教える。2人にわかりやすくな。俺だって経験がないんだ。だけど、2人のためにちゃんと勉強するよ・・・絶対に困らせない。その・・・優しくするから」
「キリト・・・そこまで言うなら・・・」
「キリトさん・・・じゃあ・・・」
「・・・っ!ありがとう!それじゃあ今夜―――」
「てめぇは一体何を誘ってんだァァァァァァアアアアッッッッ!!!!」
キリトが誘い終わる前に銀時の強烈なとび蹴りがキリトの頭部に直撃、轟音を立てて防具を陳列している棚へと派手に吹き飛ばされ、リズベットとシリカの悲鳴が店内の外まで響き渡った―――。
・・・
「全く!人がいなくてヘルプで出て欲しいってことね。最初からはっきりとそう言えば良いじゃない」
「でも、私にそんなことできますかねっ・・・ちょっとだけ緊張します」
銀時とキリトは荒らしてしまった店内の後片付けをしつつ、本来お願いしたかったことをリズベットとシリカに説明をした。当初、2人が想定していた反応とは裏腹に、なんだそんなことか、と、すんなりと了承を得ることが出来た。
「でも、良いのか?変な意味じゃないけど知らない人と一緒に食事をするんだぞ?」
「あのね。知らない人って言っても、他校の生徒とファミレスで一緒にご飯食べるものでしょ?現実―リアル―で友達と一緒にやったことあるから経験もあるし、そもそも合コンってわけじゃないんだから別に良いわよ。おまけに謝礼も出してくれるのよね?ありがたい話じゃない!最近、売上落ちて生活費どうするか困っていたんだから!」
「あと、システムのおかげで間違っても何かが起こることは絶対にありえませんし。キリトさんもおじさんも考えすぎですよ。それに、キリトさんも近くにいてくれるならなお安心です!」
「女子はね。男子が思っている以上にそーいうところに関してはきっぱりと区別しているのよ」
作品名:銀魂 −アインクラッド篇− 作家名:a-o-w