銀魂 −アインクラッド篇−
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『ソードアート・オンライン』
・第五十層 アルゲード 飲食店街
「いやはや、助かりました!まさか本当に連れてきて頂けるとは!しかもこんなべっぴんさんを2人も!」
「約束は守った。その変わりに2人に変なことは絶対にさせないってそっちも約束してくれよ?」
「安心しろキリト。店長はこんな見た目だが昔からの長い付き合いでな。店長の事は俺が一番良くわかっているつもりだ」
昨日、クラインに紹介された店の外観は緊急メンテナンスが入った為にネオンが全て落とされており、パッと見では営業しているか否かわからない状態だった。そもそも、今日は貸切状態らしいので一般の客は入れないらしい。
店の入り口には待ち合わせをしていたリズベットとシリカが到着した。食事の場ということで気合を入れてきたのか、二人ともほんのりと化粧をしたらしく、リズベットはふわふわの髪をストレートヘアに整え、赤を主体としたシンプルでもあり腹部に大きなリボンを拵えたカジュアルドレス、シリカは普段の子供っぽいツインテールからおさげに変え、大人っぽく黒を主体としオフショルに白玉模様のミニスカートだった。
「やけに力入ってんじゃねーか。合コンじゃねぇって説明したろ」
「別にこれぐらいフツーよ。それよりギンさん、今日ってどんな人たちがくるのよ?」
「知らねーよ。俺も聞いてねぇから」
「はぁ!?なんでギンさんが知らないのよ!本当に知らない男の人達の相手じゃないの!」
「店長曰く、オフレコでの貸切なんだと。大丈夫だ。いざとなりゃキリトが黙ってねぇ」
「おじさんは、何もしないんですねぇ」
「おじさん止めろって言ったよね?ちゃんと聞いてた?もしかしてわざと?」
キリトとクラインと銀時、リズベットとシリカは店長に連れられてスタッフルームに案内された。店内の豪華な内装とは対照的に、シンプルな白の壁紙にテーブルの上に雑誌、複数の鏡とそれに併せるように椅子があるだけの俗に言う楽屋のような部屋だった。予定の時間まであと少しとなったが、一応銀時も大人なので2人に相手との接し方を簡単に説明を始めた。
「いいか、てめーら。客がきたら難しいことは何も考えねぇで単純に飲み食いしながら話するだけで良いんだ。会話に困ったら相手の言葉のオウム返しをすると良い。たとえば、『俺ハンターランク100超えたんだよね〜』というどうでも良い事を言ってきた場合、お前らは『へぇ〜ハンターランク100超えたんですね〜!』という返しをすれば、自ずと会話をしているようになるし、相手にとっても話題に食いついてきたと思わせる事ができる」
「へぇ〜参考になるわ。普段の話でも使えるわね、それ」
「ちゃんと覚えておきます!ハンターランクが100を超えた場合、相手を褒め称えれば良いんですね?」
「あ、いや。ハンターランクってのはあくまで例えの話であって、別に5だろーが20だろーが何レベルでも良いってことよ」
「え、でもさすがに5はちょっと・・・チュートリアル終わらせて少し自信がついた時ぐらいのランクですよね。何にも頑張ってないじゃないですか」
「モンハンの話をしてるわけじゃねーから!例えの話をしてるだけだから!時間が無いなかでようやくあげた5だからね!? んなこと相手に言ったら泣いちゃうからね!!?」
珍しく銀時がシリカに押されていてキリトはくすりと笑ってしまった。
一応、予定の時刻まで残り30分を切るのだが、念のためにすぐ戦闘に入れるように装備は外さないようにしていた。クラインも大丈夫だとキリトに念を押しているのだが、2人の身に何かあればキリト本人の示しがつかない上に、今宵はどこの誰が来るのか一切情報が無かったものなので、余計に不安で仕方なかった。
「ねぇギンさん。なんか飲み物ほしいな。何か持ってない?」
「あ、わたしも!」
「あぁ?んなこといっても何もありゃ――――あ」
銀時は思い出したかのようにファミコン風のメニューウインドウを開く。この前の迷宮区の攻略中に倒した敵からドロップした飲み物のようなアイテムを手に入れていたことを思い出したのだ。どうせ自分は飲む事がないだろうし、回復薬だとしても子供の時に良く飲んでいたガムシロップみたいな味をしたあの液体だろう―――という、説明文も見ず安直な理由で2人に差し出した。
「なによこれ?」
「飲み物だ。よくわかんねーけど大丈夫だろ」
「まあ、ただのアイテムだし・・・遠慮なく頂くわね」
「御馳走様です!」
キリトは銀時が2人に何かを差し出していた事に気が付き、気になったのか差し出した本人に問いかける。
「なあギンさん。今2人になに飲ませたんだ?」
「さあ、たぶんオロ〇ミンC的なやつだと思うけど」
「・・・わからないままあげたのか?もったいないな。回復薬だったら後で重宝するのに。ったく・・・っ!?」
キリトは銀時が渡した小瓶を見た瞬間、身の毛が凍るような衝撃が走った―――。
なぜなら、渡したそれは、回復薬でも栄養剤でもなかったからだ・・・!
「2人とも!今すぐ吐き出―――」
しかし、キリトが警告する前にリズベットとシリカは勢いよくその場に倒れ、可愛い寝息を立てながらすやすやと夢の世界に突入してしまった。
銀時が2人に渡した薬の名前には―――はっきりと「睡眠薬」と書かれていた。
「え゛ぇぇぇぇぇぇッ!?あんた一体何やってんだァァァァァァッ!!メインの戦力二人同時にラリホー唱えてどうするんだァァァァッ!!」
「お、おおおおおお落ち着けキリト。ほら、ラリホーは昔と違って必中じゃねぇだろ?多分そのうち・・・ってか、すぐ起きるよ。戦闘終了前には絶対目覚めるよ」
「目覚めるわけねぇだろォォォッ!!?どうするんだよ!?あと30分もすれば客くるんだよ!!?」
「・・・おいおい、まじかよ!やべぇぞキリト!この薬、ラリホーどころかラリホーマだぜ!2時間は絶対に起きないって説明書きに書いてっぞ!」
「ほ、本当かクライン!!?・・・おい、起きろリズ!なあおい!シリカ!!」
キリトは必死に2人の肩をゆするが、一瞬起きかけるも「さっさとあんたも歌いなさいよキリト〜・・・」という訳のわからない寝言を唱えたのち、またすやすやと気持ち良さそうに寝始めた。
「お願い!リズさん超起きてッ!!さっさと歌うから起きてください!お願いします!!」
「迷宮区攻略中に安眠する為の睡眠薬だ。ちょっとやそっとじゃ絶対に起きねぇよ。・・・どうします将軍殿?なにか策はないんですかぃ!?」
クラインの問いかけに対し、汗の止まらない銀時は何かを決意したかのようにスタッフルームの奥の更衣室へと向かい始める。
「将軍殿・・・?」
「おい、キリト」
銀時はゆっくりと振り返り、キリトに声をかけた。
「な・・・なんだよ・・・」
「最後の手段だ・・・。これしかねぇ。お前も腹をくくれ」
「将軍殿、一体何を?」
銀時はすぐさまエギルにメールを入れ、とある指示を送った。
そして、銀時の何かを決意したその目に、キリトは一瞬たじろいでしまった―――。
作品名:銀魂 −アインクラッド篇− 作家名:a-o-w