銀魂 −アインクラッド篇−
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『ソードアート・オンライン』
・階層:不明 現在地:不明
覚醒すると、目の前には大きな岩が映った。
どこかの洞窟の内部なのか?
銀時は頭を押さえながら朦朧とする意識を叩き起こし、今、自分がどのような状況にいるのかを確認する。辺り一面は薄暗く、所々に明かりとなる松明が設置されている。松明が設置されているということは誰かがいるということだ。銀時はメニューウインドウを開き自身の武器となる『洞爺湖の木刀』を装備。いくら拘束をされていたとしても所有物までは勝手に弄れなったようだ。右も左も薄暗く、どちらに進めば良いのかも不明。
「なんてこった・・・メールも駄目か」
キリトやアスナ達に連絡をしようと試みるも、なにやら妨害電波のようなものがあるのか全ての連絡手段はシャットダウンされていた。ましてや装備品に転移結晶の類も持ち合わせていないため、完全に徒歩による脱出をするしか選択肢が無い。
「勘弁してくれよ、初心者相手に普通ここまでするか?ったく・・・」
途方に暮れていたその時、自身に向かってきているのだろうか?
複数人の足音が薄暗い場所から聞こえてくる。
そういえば、意識が途絶える前にクラディールからラフィン、いや、マフィン?・・・忘れてしまったがそいつらの根城に行くとかなんとか言っていたのを思い出した。
その人物たちの姿が次第に鮮明になっていく。
人数は20を超え、膝まではあるボロボロのフードを被った人物たち。刃こぼれした剣だの鉈だの物騒な装備で単純に挨拶をしにきたという訳ではなさそうだ。その集団のリーダー格の人物がメイスを銀時に向けた。その人物の頭上にはオレンジ色のカーソルが表示されている。
以前にアスナから少しだけ教えてもらったが、オレンジ色を示すカーソルの意味は「犯罪者」。
どうやら、普通のプレイヤーではないことは確かだ。
メイスを向けたその人物は獲物がやってきたと言わんばかりにやや笑いながら銀時に話しかけてきた。
「久しぶりだなぁ・・・ここに一般プレイヤーが訪れるなんて何時以来だったろうか。ここ数カ月は『あいつら』のおかげでこそこそとしか動けなかったんだ。楽しませてもらうぜ」
「リボ〇・シ〇ロンが俺になんの用だ。悪いが俺ぁ初心者だから大したもん持ち合わせてねぇよ」
「いやラフィン・コフィンだから。それだと炭酸飲料の名前になるだろうが」
「悪かったな。てめぇらの家に土足で入っちまってよぉ。んで、出口どっちだ?最近連戦続きでこちとら疲れてんだから帰って寝させてほしいんだけど」
「おいおい、お前・・・帰れるとでも思っているのか?」
その人物の言葉に周りにいた他の仲間たちが大いに笑い始める。
正直、気味が悪く、一分でも早く脱出したかったのだがそういう訳にはならなさそうだ。
銀時は腰に装備した木刀を抜刀し、構える。
「てめぇもしかしてやる気か?周り見てみろって!お前1人で俺達全員の相手できるって本気で思ってんのか!?」
周りの仲間たちも銀時と同じく武器を構える。
気が付けば銀時は囲まれている。洞窟の内部なので自由に身動きもできない。出口もわからないので脱出も不可能。ならば、全員倒して聞くまでのみ。
「はいはい、いかにも雑魚が良いそうなセリフ全部いってくれてありがとうございま〜す。もうお腹いっぱいだから喋んなくて良いよ。周りに炭酸水ばっかりでお腹パンパンだから」
「もうゆるさねぇ・・・やっちまえ!!」
―――次の瞬間。
銀時の後方から3人がかりで襲いかかる!
それを察した銀時は身体を後方に捻り、その勢いで3人同時に薙ぎ払う!
「遅ぇッ!」
見た目とは裏腹に全く手ごたえが無く、3人は壁に叩きつけられて気絶状態と化した。
「な゛ッ・・・」
一瞬、他の仲間が絶句するも勢い任せに今度は全員で銀時に襲い掛かった。
ただのチンピラのような集まりなのか全く統制が取れておらず、これなら迷宮区のモンスターのほうが強いんじゃねぇ?と考えながら全員からの斬撃を全て回避、隙だらけの身体に右斜め上から左斜め下に向かって大きく一太刀、両足を用いたドロップキック、相手の頭を右手で掴み他に襲い掛かる敵に向かって投げ、大きく鉈を振りかざそうとした相手には木刀で受け止めそのまま薙ぎ払い、遠方から槍で突進を試みる相手にはその槍を掴み、逆に自身に引き寄せつつ顔面に拳を入れる。
「ばっ・・・馬鹿強ぇッ・・・!!」
「ほら、もう終めぇか?」
気が付けば、たった数分足らずで20は超えていたラフィン・コフィンのメンバーたち全員が気絶状態になっていた。最後に残ったのは最初に銀時へ話しかけてきたメイス使いの人物のみであり、尻もちを着きながら後方へ後ずさる。
銀時のHPはクラインに色々とお土産を頂いたため半分にも満たず黄色く表示されていたが、一ミリとも減る事はなかった。それを見ていたのか自分たちよりも格上のプレイヤーなんだと気付き、今にも逃げ出しそうだった。
銀時はお構いなしにその人物の目線まで腰を降ろし、フードを剥ぎ取り乱暴に髪を掴んだ。最初の威勢が嘘かのような、どこにでもいそうな普通の顔でぼさぼさの黒い髪の痩せこけた男だった。
「ほら、もう良いだろ?さっさと出口教えろよ。家に帰りたいのと連絡を取りたい奴がいるんだからよぉ」
「くそっ!!あの男の話と全然違うじゃねぇか!!・・・そうか、わかったぞ!お前は『あいつら』の仲間だろ!!で、出口はあっちだ!さっさと帰ってくれ!!」
「あいつらって誰だよ。それよりあの男ってのはクラディールのことか?あいつは一体何を企んでやがる。ほら、さっさと吐きやがれ」
銀時は男の口に無理やり木刀を突っ込む。
男はフガフガとわかったわかった!と身体を使ってジェスチャーをし、喋らせる為に木刀を抜いた。
「あの男、クラディールは俺達ラフコフに最近入ったばかりの新参者だ!PK行為に丁度良い獲物を持ってきてやる変わりに俺達の『持ち物』と交換しろって条件を付き出してきやがった!だがあいつは低レベルのプレイヤーって言ってたんだ!あんたみたいに強ぇ奴だなんて聞いてねぇ!!」
確かに、自身のレベルはとても自慢できるものではない。数字上は『嘘』ではない。
しかし、そんなことより男が言った『持ち物』という言葉に引っかかった。
「おい、持ち物ってなんだ。てめぇらはあいつに何を渡した!何をしようとしてやがるッ!!」
「ひぃぃッ!麻痺毒が入った瓶だよ!飲んだらたちまち身体も動かすことも出来ずにじわじわとHPを減少させる特殊な薬だ!あんたが飲まされたものと同じ奴だ!何に使うかは俺も詳しいことは聞いてねぇ!だ、だけど、・・・確か、癇に障るガキを始末するためだって言い残して何本も持っていきやがったんだ!!これ以上は本当にしらねぇ!嘘じゃねぇ!!」
癇に障るガキ・・・・っ!!
キリトのことか!?
拙い―――その話が本当であればキリトが危ない!!
「―――キリトッ!!」
銀時は男を離し、出口を指した方向へ走り出す!
男は悲鳴を上げながら銀時とは逆の方角へと逃げていった。
大変な事態が起きた。
銀時は自身が経験したのであの薬の作用は嫌と言うほど理解している。
飲まされると言葉の通り『何もできない』のだ。
作品名:銀魂 −アインクラッド篇− 作家名:a-o-w