銀魂 −アインクラッド篇−
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『ソードアート・オンライン』
・第五十五層 グランザム フィールド 迷宮区入口前
――――アスナは息を飲みこむ。
レフティと名乗った彼女はにやにやと自分たちを見つめてくる。その彼女の持つ長剣はなんらかのスキルを所持していることに違いはない。どのようなスキルを所持しているのかは不明だが、唯一言えるのはあの大きな長剣は本来、両手剣のはずなのに片手でそれを軽々しく振り回しているのだから、一応、自分や彼と同じ片手剣持ちなのは確かだろう。
「アスナ、・・・無理はするな。相手は・・・ラフコフだ。・・・普通の相手じゃない」
「わかってる。・・・いざとなれば転移結晶を使ってこの場から一緒に避難するからねっ・・だけど」
アスナはレフティが言ったあの言葉に疑問を抱いていた。
確かに、通常であればさっさと転移結晶をして戦線離脱するのが得策であろう。
しかし。彼女ははっきりと「キリトくんを殺すためにやってきた」と言った。
ここで彼女を逃がしてしまえば、その陰謀を暴くこともできなくなるし、なおかつ、野放しにしておくこともできない。
約束したではないか。
彼を守る―――と。
(くそッ・・・まだ身体が動かない!俺が動けない限り、アスナは俺を守るためにここから避難できないッ!まだ状態変化が治らないのかッ!?)
クラディールの残した麻痺毒は想像以上のものだった。
あれからかなりの時間が経過するはずなのに一向に麻痺及び毒の症状がとまらないのだ。一時、HPがイエローになるもアスナのおかげで全回復はした。しかし、状態変化を治した訳ではないのであくまで一時しのぎだった。
「ねぇねぇっ!さっきからお互いちらちらと何度も見続けているけどさっ、もしかして2人は付き合っているのっ?」
「・・・聞いてどうするの?」
「え〜いいじゃないっ!別に私が奪おうってわけじゃないんだしっ!単純に気になるのっ!」
「ごめんなさい。あなたの考えがさっぱり理解できないわ」
「そ、そこまで言うっ!?冷たいな〜、さすが血盟騎士団の副団長さまっ!でも、別に良いよっ!だってね――――あとちょっとでお別れすることになるからさっ!」
「っ!!?」
金属と金属が擦れ合う音が響き渡る。
あまりの速さにアスナのガードもギリギリだった。
言葉の通り、レフティはアスナではなくキリトに対して攻撃をしてくる。
キリトは何も行動ができない上に自分を殺しに掛かってくる彼女に少し恐怖する。
(こ、怖ぇ・・・。それより、あのアスナがガードするのに精一杯だと!?パラメータの振りどうなってんだっ!!?)
「ありゃ、まさか防御されるとはね〜」
「くっ・・・」
「でも、この程度でそんな顔しているなら潔く後ろ下がっていてよっ!もっともっと速くなるよっ!」
その言葉にも嘘偽りが無く、右、左、上、下・・・多方向からの斬撃がキリトに押し迫る!
アスナは負けじと喰らいつくも少しずつ対応がしきれなくなり、HPバーも微量ながら減少を始めてしまう。そんなアスナに驚いたレフティは斬撃を止め、その隙を見逃さないアスナはソードスキル「スター・スプラッシュ」を発動、レフティの腹部に高速の三連続突きを放とうとするも、発動するタイミングが遅かったためか簡単に避けられてしまった。
「すごいすごいっ!私の攻撃にここまで耐えた人初めてみたよっ!お姉さんすごいねっ!」
「う゛ぅっ!!はぁっ・・・・・・はぁっ・・・・・」
「すごかったけど、これ以上は本当に止めておいたほうが良いよっ?息も上がっているみたいだし、これ以上私の攻撃に追いつける保証もなさそうだねっ!」
悔しいが、彼女の言う通りだった。
正直、この前の迷宮区攻略がどれだけ簡単だったのかを痛感した。
対人戦に全く経験が無い訳ではないが、彼女の強さは『異次元』だった。
重量級の武器に対してあのスピードとあの腕力、そして長剣のメリットでもある威力とリーチの長さにそれを上乗せ・・・見事に両手剣装備のプレイヤーが頭を悩ます全てのデメリットを克服している。それ以上にあの『余裕』。スタミナ値が一体どうなっているのだろうか?
それに引き替え自分は既にボロボロ。
細剣による得意の高速斬撃でも彼女には歯がたたない。彼女はそれ以上の速さを会得している。
「―――だからと言って、引き下がるつもりはないわ。『閃光』の二つ名に恥じぬよう、本気で行かせてもらうわね」
「えぇ〜?警告はしたのにっ!もう知らな―――」
その瞬間、レフティの左足にアスナのレイピアの剣先が到達していた。名前の通り『閃光』の如く、剣先を白く光り輝かせ極限まで加速させて放たれる一点集中突きにはレフティでも対処しきれなく一方的にやられていたアスナからのお返しと言わんばかりに逆転の一撃を与えたのだ。
「まずそのスピードを対処させてもらうわっ!」
アスナはガードのみをしていただけではない。
まず速さの元となる『足』。その利き足を把握するところから始まっていた。人間は誰しも利き足が存在する。無意識に前に出るのが利き足なのだが、反対の足はバネのような役割を持っている。そのバネを破壊さえしてしまえば爆発的な俊足を封じたのも同然である。
「すごいっ!だけどこのパワーには耐えられるかなっ!?」
スピードは封じた。速さだけならこちらに利がある。
次にアスナに迫ったのは左斜め上から迫る長剣だ。残念ながらアスナのレイピアでは両手剣クラスの重量に耐えることができない。ましてやスピードを求める為にギリギリまで軽量化を行っているのだ。とてもではないが受けきれない。
「両手剣を片手で軽々しく振るうプレイヤーは見た事がないわっ!だけど―――」
両手剣のメリットであるリーチの長さ。これは、デメリットでもある。
アスナはやや後方へ移動、リーチの長さによる身体へ到着する距離を長くする。根本と剣先ではその長さ故にほんの少しではあるも到達距離に時間差が生じる。そのほんの少しの時間差を利用してアスナはソードスキルを発動。
自身の剣の長さでは届かない。しかしそれを補う為のスキルを会得してきた。
移動をしながらレフティの左腹部から右肩に向かう様に剣先から5連撃の『衝撃派』を放ち、相手の剣が身体へ到着する前に緊急回避。ミリコンマのやり取りが繰り広げられる世界でアスナはレフティへ確実にダメージを与えて行く。
「あらら・・・結構痛いの貰っちゃった。ほんと、お姉さんすごいよっ!蝶のように舞い蜂のように刺すって本当にあったんだねっ!あははっ!」
彼女の速さを封じ剣の対処も得た。あと厄介なのはスタミナとその小柄な身体から生まれるパワーなのだが、一番恐ろしいのは彼女が今の状況を全く恐れていないということだった。
ここまで劣勢になっているのにも係らず、慌てるどころか逆に喜んでいるかのように見受けられる。
(もしかして、あれは一種の『余裕』なのか?ここまでは完全にアスナが優勢だ。なぜ笑っていられる?・・・自分は確実に負けないという余程の『自信』があるのか?)
キリトもアスナ同様にレフティを模索する。
模索すればするほど彼女の喜び方が余計に恐ろしい。
次の行動へと移すため、着実に、確実にクリティカルヒットを狙うアスナは再びレイピアを構えた。
作品名:銀魂 −アインクラッド篇− 作家名:a-o-w