宇宙戦艦ヤマト 完結編 アナザーエンディング 1
<生活班長、至急第一艦橋へお戻りください。>
相原から艦内放送が入った。ユキは幕の内の顔を見ると
「班長、どうぞ。彼は私が見ますから…ボウズ、俺でいいよな?」
幕の内がじゃれながら少年に聞くと
「え~?本当はお姉ちゃんがいいけど…呼び出しじゃしょうがない…幕の内さん
と勉強しててあげるよ。」
とふざけながら言った。
「お?お前、言うようになったな!」(幕の内)
「へへへ…」(少年)
少年にも笑顔が見られるようになったなとユキは思った。
「ごめんなさいね、じゃぁ幕さん、お願いします。」
ユキは第一艦橋に向かって走り出した。
「お姉ちゃん、忙しいね。」
少年はユキの後ろ姿を見つめながら言った。
「あぁ、彼女はスーパーレディだからね。看護士に、レーダー士…そして
生活班長。本当によく働くよ。」
幕の内はポケットから“内緒だぞ?”と言ってアルミホイルで包んだクッキーを見せた。
「あ、ありがとう!おいしそう~いただきます…うん、おいしい!本当に
おいしい。」
少年は幕の内が作るお菓子が大好きだった。ディンギルは戦う事が全てで子供を育てるのは戦士を育てるため、と言う感じだったので何かを味わって食べる、という事はなかった。強くなれば昨日よりいいものが食べられる…。王家に生まれた少年は普通の子供より強くなることを求められた。ゆっくり食事などした事なかった。毎日戦ううえでどう、自分が生きて行かれるか…その事だけを体で教えてもらっていた。
幕の内は普通のクッキーをおいしそうに食べる少年がかわいそうで仕方なかった。できるだけたくさんの事を教えて地球で普通に暮らせる子にしたい、と思った。
「ねぇお姉ちゃんは僕を助けてくれた人と恋人同士なの?」
突然少年が幕の内に聞いて来た。幕の内は“マセてるなぁ”と言いながら
「そうだよ、恋人同士、でねふたりは結婚の約束もしてるんだ。」
幕の内がそう教えると
「ふうん、上に行くとみんな仲がいいんだけどあの二人だけなんとなく違う
感じなんだよね。やっぱりそうなんだ。」
少年が納得したような顔をしたので
「お?お前わかるのか。空気読める男じゃないか!」
幕の内は頭をイイコイイコした。
「僕ねあのお兄ちゃんも大好き。僕のお父様がお兄ちゃんみたいだったら
よかったのに、って思う。…僕ね余り強くなくて…だからディンギルが
水没しちゃったとき置いて行かれたんだ。」
幕の内はヤマトが音信不通になった時の航海に参加していない。
「弱いものは滅びる…そう言い聞かされてたんだ。だけど突然宇宙船が来て
気付いたら透明のカプセルに入れられていて…地球と言うところで起こさ
れたんだ。誰もが僕を覗き込んでいた。僕は怖かった…お母様を探そうと
思ったけど…それもできなかった。この艦が飛ぶ、って聞いてお医者さんの
荷物の中に紛れ込んだんだ。」
幕の内は黙って聞いていた。
「地球を攻撃する映像を見て自分の星の艦隊だと気付いたから…ちゃんと
確かめたくて…ひょっとして僕を探しに来てくれたの?って…僕を見たら
戦いを止めてくれるかな?なんて期待してたんだ…僕は甘かった…。お父様は
地球をディンギルにしたかっただけ…お兄様もそのコマにすぎなかった…
僕は…忘れられた存在…。誰からも必要とされていなかったんだ。お父様は
僕が生きてる事も知らないまま…」
少年の声は小さかった。
「ボウズ、お前さんは生きてるだろ?これからいくらでも地球でやり直せる。
ディンギルでできなかった事…勉強とかいろいろしよう。」
幕の内の言葉に少年は顔をぱっと上げた。
「お前さんは地球で幸せになればいいんだ。俺たちが付いてる!」
少年は幕の内の言葉を聞くと嬉しくなって涙が出てきた。
「…あれ?どこもぶつけてないのに…痛くないのに涙が出るよ?どうして?」
少年は一生懸命涙を拭いた。
「ははは、ヒトは痛い時だけじゃない。悲しい時や嬉しい時も涙が出る生き物
なんだよ。それは普通の事。ボウズは大丈夫だ…普通に生きられるよ。」
少年はにっこり笑うとどんどん溢れてくる涙を何度も拭いた。
作品名:宇宙戦艦ヤマト 完結編 アナザーエンディング 1 作家名:kei